・インタビューしちゃいました!! 2017-09-28 15:55

モチロンプロデュース「クラウドナイン」 髙嶋政宏 × 木野 花(演出) インタビュー

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時間と空間を超えた舞台設定、構成の妙と、赤裸々な性表現などで“衝撃作”との呼び声も高い、英国の劇作家、キャリル・チャーチルの代表作『クラウドナイン』。イギリスでの初演は1979年、その後1985年、1986年、1988年には木野花演出で日本でも上演され、その過激かつ刺激的な内容から大きな話題となった。そして2017年の今、木野がこの伝説的な舞台にまたもや挑む。舞台となるのは、一幕では1880年頃のイギリス植民地時代のアフリカで、二幕ではその100年後の現代のロンドン。その一幕と二幕とで、役者は性別、年齢を超えて役を演じることになるという仕掛けも自由で斬新だ。この企画に集められたキャスト陣も、髙嶋政宏、伊勢志摩、三浦貴大、正名僕蔵、平岩紙、宍戸美和公、石橋けい、入江雅人という個性派揃い。その中でも、一幕では家長のクライヴ、二幕ではその一人息子のエドワードを演じる髙嶋と、4度目の演出に意気込む木野に、話を聞いた。

 

――今回『クラウドナイン』を約30年ぶりに木野さんが演出するきっかけになったのは、木野さんが「もう一度演出したい」とおっしゃっていたからだそうですね。

木野「そう、でもまさか本当に実現するとは思っていなかったんですけどね。『クラウドナイン』という作品は、1985年、1986年、1988年に演出した経験があるものの、いまだに自分の中ではやりきった感がなくて。まだまだやり残した宿題があるような気がする作品なんです。そうしたら思いがけない方向から声をかけていただいて、ちょっと意外な展開でした。」

髙嶋「そうだったんですか。『クラウドナイン』って、木野さんが初めて演出した作品だったんでしょう?」

木野「ええ。劇団時代は共同演出というスタイルだったので、単独演出ということでは初めてでした。翻訳ものを演出するのも、プロデュース公演に参加するのも、全部が初めて尽くしだったので、ほぼパニック状態でしたね(笑)。とにかくわけのわからない恐怖感を抱いたまま、やっていました。初演時は私、まだ30代後半だったんじゃないかな。そう考えると若いですよね。」

髙嶋「若いですねえ。」

木野「だから、この脚本が巨大な砦となって自分の前に立ちはだかっている感じでした。難しい!って思いました、本当に。若かったせいもあって、ものすごい勢いで役者を追い詰めて、パワーでなんとか乗り切ったという感じもあります。」

 

――でも、もう一度やってみたいとずっと思われていた。

木野「そうです。今回、改めて読んでみて不思議な感じがしたんですけど。ベティという、物語の中心になる30代の登場人物がいるんですが、二幕では60代くらいのおばあさんになっているんですね。そのベティには30代の娘がいて。初演時は、ちょうど私がその娘の世代で、私の母親がベティと同年代になるから、そういう関係性を想いながら作っていたところがあったんです。それが今回は私がベティの年齢になっているので、その年代の視点で眺めてみると、不思議な感慨があるんです。さまざまなシーンが、別の景色に見えてくる。だから「ああ、もう一度やりたかったのはこういうことなのか」と思いつつ、今、アイデアをふくらませているところです。」

 

――その作品にお声がかかった髙嶋さんとしては、まずどう思われましたか。

髙嶋「モチロンのプロデュース公演(「大人計画社長のプロデュース公演」)で、木野花さんが演出をなさり、作品は『クラウドナイン』だと聞いたら、もうただただ「とにかくやりたい!」という想いだけでしたね。それで脚本を読んでみると、”普通の翻訳ものならば、当時のイギリスの時代背景、風俗、宗教、そこに生きてる人間などなどを深く掘り下げて演じるわけなんですが、こと、この『クラウドナイン』に関しては、そんなことよりもいかに俳優が一幕と二幕を演じ分けるか、この一点だけを試される作品なんです。だからこそ、二幕は100年後の設定なんだけど、登場人物は25歳しか歳を取ってないという、これだけ見てもキャリル チャーチルさんの、年月なんか別にどうでもいいんだよ。とにかく、いい芝居みせてよ。という、いちびりな性格が垣間見える恐ろしい作品なんです。”これを見事に演じ切れたら、最高だろうな!って。実は最初は、一幕に出てくるクライヴ役だけを演じるんだと思いながら読んでいたので、二幕は出てこないんだなと思っていたら、二幕は僕、エドワード役だったんだ!と、読んだ後に気づいて。」

木野「アハハ、そうだったんですか。」

髙嶋「そう、それで「この作品は絶対に面白いです、ぜひやりたいです!」って話を木野さんに初めてした時、もはや僕、ちょっと興奮状態になっていたみたいでしたね。」

木野「もうね、食いつきがよすぎて「大丈夫かなあ、何か誤解して違う台本を読んだんじゃないのかなあ?」なんて心配になりました(笑)。だって、大体の役者さんには、この台本を読んで「難しい、どうやってやるのか想像がつかない」って敬遠されるのが普通だったのに、髙嶋さんだけはすごい食いつきだったから。でも台本をそこまで面白がってくれる役者さんがいるというのは、うれしかったし、心強かったです。」

 

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――今回は初演、再演から29年ぶりの上演ということですが、前回と変えたいところ、逆に変えたくないところを意識されたりしますか。

木野「舞台構造がちょっと違うからそこは当然変えるとして。当時、まだ読み込めていなかった部分もありますし、30年経ったことで読み方も変わってくると思います。初演、再演の頃はエネルギッシュに、パワーで乗り切った印象があるんです。でもその点は今回のメンバーも、既に黙って立っているだけでパワーがある方ばかり、お芝居もうまい人たちばかりですからね。ちゃんとお芝居がしたいなという想いも強くあります。セリフに関してももっと掘り下げて、伝えたいですし。それに加えてこの作品って、相当なコメディーだと思うんですよ。特に一幕。私としては、まさにその笑いの部分を結構取りこぼしたという気持ちがあったので、今回はぜひともその喜劇性をもっと出していきたい。その一方で二幕はもっとシビアに、生きるということの厳しさに向き合いたいと思っています。」

髙嶋「いやあ、もう、がっつり稽古するしかないですね! 二幕は特に、言っている人のセリフとビジュアルの違いで、かなり面白いことになるんじゃないかと思いますけど。ぜひそこを真剣にやりたいです。別に、ウケを狙おうとしなくても、とにかくひたすら真剣にやれば相当面白いお芝居になるでしょうから。」

木野「大丈夫です。どれだけ真剣にやっても、受け止められる器の脚本だから。」

髙嶋「すごいですよ、この作品。」

木野「久しぶりに読んでみて思ったのは、これは一幕だけでも充分に完結しているんですよ。」

髙嶋「ああ、そうですね。」

木野「一幕は一幕でビクトリア朝時代のお話として、二幕は二幕で現代のロンドンのお話として完結している。だからすごく贅沢な作品なんだと思いました。二幕になると時代は100年経っているわけですが、時間が経ち、価値観が変わっても人間って、生きるということに関しては切ないくらいに不器用で、暗中模索している。そして、そういう姿が愛おしくなってくる。本当に、すごくうまく書かれている台本だと思いますね。」

 

――髙嶋さんは、映像とは違う、演劇作品ならではの楽しさはどういうところに感じられていますか。

髙嶋「映像も演劇も楽しさは同じなんですけど、ただテストをする時間が長いか短いかという違いだけで。僕は、どっちかというと最近はなんでもかんでもやってみるスタイルにしているんです。それで「それはやりすぎですよ」とか「ちょっとやらなさすぎですよ」という判断を演出の方に委ねるようにしているんですね。つまり、徐々にちょっとずつ出していくのではなくて。」

木野「最初に、とにかくまずやってみせてくれるんですね。」

髙嶋「そうです。ただ、木野さんの前だと、どれだけやったとしても「もうちょっとやってくれる?」って言われそうな気がしています。」

木野「ああ~、よくわかります(笑)。でもたぶんね、役者がラクだと思っている間はダメなんですよ、この芝居は。」

髙嶋「いや、僕もそう思いますね。」

木野「ラクにやれちゃうと、もはやそこから答えは出ない。みんなで、ヒーヒー言いながらやっていかないと見えてこないんだと思います。だから髙嶋さんが、ここまでやれると言って来たら「じゃあ、そのもうちょっと先まで行ってみましょうか」となるでしょうね。」

 

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――じゃ、フルパワーを出していたとしても、さらにその先が求められる。

髙嶋「ああー、そういうことか!」

木野「何度もやると、ラクになっていくと思うんですよ、身体に筋肉がついちゃいますからね。」

 

――慣れてきたりもするし。

木野「そう、常にじわじわと、しんどい状態を持続していく。だから初日と楽日では、だいぶ変わっているでしょうね。」

髙嶋「そうかもしれないですね。」

 

――本番でもさらに?

木野「はい。そこは毎日、ダメ出しをします。特に、うまくいってると油断するし、お客さんが入ったことで変化したり発見することがありますし。ぬか床みたいにね、芝居の熟成のためには、毎日かき混ぜないと。でも髙嶋さんは既にそういう、覚悟を持っていらっしゃるみたいですよね。」

髙嶋「はい、持っています。」

木野「うれしいです(笑)。」

髙嶋「木野さんの噂は、いろいろな方から話を聞いていますので(笑)。」

木野「変に怖い話でしょう? あれは、みんなすごく盛って話してますからね(笑)。」

 

――今回の演出としては、どんな狙いを持たれていますか。

木野「既に脚本にどう演出すればいいかは書かれてしまっているので、特に奇をてらったことはあまり考えていません。むしろ、書かれてあることを、役者が自分の言葉にして自由に発することができるか。それも、翻訳劇というしばりを感じさせずに、という部分が演出としては追い込みどころかなと思います。ぜひ演技を超えてほしいですね。その点、髙嶋さんはもはや、そういう境地に行っていそうですけど。」

髙嶋「え、そうですか?」

 

――早くも、演技を超えかかっている?

木野「ええ(笑)。髙嶋さん自身が「へえ、そういう人だったんだ!」って思われるくらいに、その役を生きるというところまで行ってくれたらと期待しています。」

髙嶋「そうですよねえ、生きるしかないですよねえ……。」

木野「それって楽しいだろうなと思うんです、私は。だから役者さんたちには楽しんでほしい。難しいけど楽しめたら答えが出る気がするんですよね。そして、それができる人たちが今回は揃っていると思っているので。」

髙嶋「そう、僕としては絶対に、誰かが愚痴を言ったりしない現場を目指したいです。」

木野「フフフ、なんだろうね、その愚痴って。」

髙嶋「公演中に「いやあ、なんかよくわかんないんだよねえ」と言ったりとか。」

木野「でも「わかんない」は、よくあるんじゃない? わからないところもありきで、楽しんでほしいですよ。」

 

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――みんなで「わかんない、わかんない」と言っていることが面白い。

木野「そう、全然わからなくていいんじゃないですかね、逆に言うと。わかって、つるっといかれても困っちゃう気がします。わからなくて当然の台本だと思いますから。だけど面白いって言ってもらえたら嬉しいですね。」

髙嶋「やっぱり木野さんも、最初は読んだ時にわからなかったですか?」

木野「初演の時は、本当に腰が引けたというか。「私が演出? ムリムリムリ!」って、最初は断ったくらいです。そのうち、お客さんにわかってもらえて、楽しんでもらえるためには、まず自分が「わからない」ことを楽しまなきゃと思い始めて、ラクになりました。」

髙嶋「なるほど。」

木野「それと、共感できる作品にしたいですね。今回、落ち着いて読み直してみると、拍子抜けするくらいわかりやすくて、面白い台本なんですね。初演当時はもう、「ギャーッ!」て感じで(笑)、難しい!!って側面だけが壁のように立ちはだかっていたんですが、慌てず素直に読めば、愛すべき素敵な台本なので、それを今回はお客さんに伝えられるといいなあと思っています。とは言っても、役者全員、私もひっくるめて、全力投球の稽古場になるでしょうね。」

 

――すさまじい稽古場になりそうな気がします(笑)。

木野「ええ。私、今から身体を鍛え始めましたから。体力が気力を支えますからね。」

髙嶋「僕も、車にはあまり乗らないようにしていますよ。自転車で現場に行ったり、ジムにも通っていますし。」

木野「いいですね。私もジムに行っていますよ。足腰鍛えようと思って。」

 

――おふたりとも、メラメラと燃えているのが伝わってきます(笑)。

木野「ふふふ、私は出るわけでもないのにね(笑)。でも本当に体力がいる脚本なんですよ、これ。」

髙嶋「そうですよね、ぜひともこの脚本が持っているパワーに追いついて、どうにかして体現したいと思っています!」

 

※髙嶋政宏の「髙」ははしごだかが正式表記。

 

取材・文/田中里津子

 

【公演概要】
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モチロンプロデュース 「クラウドナイン」

日程・会場:
2017/12/1(金)~17(日) 東京・東京芸術劇場 シアターイースト

2017/12/22(金~24(日) 大阪・OBP円形ホール

作:キャリル・チャーチル
翻訳:松岡和子
演出:木野 花

出演:髙嶋政宏 伊勢志摩 三浦貴大 正名僕蔵 平岩紙 宍戸美和公 石橋けい 入江雅人