・インタビューしちゃいました!! 2017-10-04 13:05

『中村勘九郎 中村七之助 全国芝居小屋錦秋特別公演2017』『特別公演2017』 中村勘九郎×中村七之助インタビュー

中村様

名作中の名作『棒しばり』と『藤娘』を全国巡業で上演
見やすく、楽しく、うっとりする「踊り」を満喫したい

中村勘九郎と中村七之助を中心とした中村屋一門が、2005年より毎年欠かさず行う全国巡業公演『錦秋特別公演』において、勘九郎と七之助、2人揃ってのインタビューが行われた。13年目を迎える今年は、全国のホールをめぐる『特別公演2017』に加え、江戸後期から昭和初期にかけて築かれ、いまも現存する「芝居小屋」8カ所をめぐる『全国芝居小屋錦秋特別公演』も同時に敢行。11月いっぱいを使い、ある日は芝居小屋で、ある日はホールでと、交互に上演しながら全国を駆けめぐる。懐かしい場所、お久しぶりの場所、はじめましての場所と、小屋それぞれにさまざまな想いを抱く2人の胸膨らむ期待を聞いた。

 

勘九郎「毎年思うのは、こうして2人で全国を回ることができる、13回目を迎える今年も継続できるという喜び。ひとえに、土地土地のお客様のおかげです。『錦秋特別公演』はわたしたちにとって宝物のような公演。特に今年は芝居小屋とホールの両方が回れることを大変うれしく思っております。いまは芝居でもなんでもわかりやすいほうに傾いて、“踊り”からだんだん足が遠ざかっているようにも感じられますが、日本の文化、昔からある“踊り”の素晴らしさをすこしでも皆様に知っていただきたく、いっそう気を引き締めて励みたいと思っております」

七之助「いま兄が申した通り、毎年、兄弟でやらせていただいておりますが、今年は中村鶴松も参加いたします。一生懸命にやるのみです。わたしは父の襲名の巡業についていろいろな土地を回らせていただきましたが、実に楽しく、役者冥利に尽きる思いをたくさんしました。今回もとても楽しみにしております」

 

――勘九郎さんは狂言をベースにした『棒しばり』、七之助さんは『藤娘』と、有名な演目を選んだ理由は?

勘九郎「芝居小屋でもできるということで、客席と舞台のあの近さ、臨場感には何がいいんだろうと考え、やはり、歌舞伎の舞踊の中でもスタンダードな人気作が良いと、『棒しばり』『藤娘』にいたしました。おもしろいもので、小屋や劇場が違うと、作品の捉え方や感じ方も変わってくるんですね。それぞれの土地で迫力あるものがお見せできるのではないかと思います」

七之助「僕は、ただ、ただ、『藤娘』を芝居小屋で踊りたいとの一心で、即決でした。お客様のことも考えておりますが、踊りたいと自分のことしか考えていない選択です(笑)。芝居小屋は完全な暗転にならないんですね。どこか光が漏れている。それも味があっていいんです。(坂東)玉三郎さんが『藤娘』で花道を引っ込んだ(花道を歩いて退場し、幕切れとなる)のが良かったので、僕も今回は花道を引っ込もうかと。お客様と近いのが芝居小屋の利点の一つですから、皆さんに振りまくわけではないですが(笑)、なるべく近くを通れるようにしたいなと考えています」

勘九郎「狂言から来ている『棒しばり』は名作中の名作。僕も若いときから何度となく踊らせていただいていますが、踊りの名手、六代目尾上菊五郎と七代目坂東三津五郎の手を縛って踊らせてみたらどうなるんだろう、というところから出来上がった作品ですので、とても難しいんです。若い頃はがむしゃらにやっておりました。が、父はよく言っておりました、狂言のリアリズムと非リアリズムをどうつかんでいくのか、と。あの感じをつかんでいかなければならない、それは歌舞伎役者の使命です。芝居小屋にいただくパワーも感じつつ、『棒しばり』がどんどん自分のものになればいいなと思います」

 

中村勘九郎様

 

――初参加の鶴松さんへの期待はいかがでしょう?

勘九郎「弟は『藤娘』をやりますから、兄弟で『棒しばり』をやると大変。で、鶴松に、やる? と聞いたら、目の色を変えて喜んで。今回は鶴松が太郎冠者、僕が次郎冠者。僕も初めて『棒しばり』を踊ったときは太郎冠者で、三津五郎のおじさまから細かく教えていただきました。やはり、伝えていかなければならない、鶴松も中村屋のメンバーです。しっかり伝えていくことで、日々日々の2人のキャッチボールやコンビネーションが良くなっていくと思います」

七之助「鶴松も無事に大学を卒業しまして、歌舞伎一本になってから初の舞台。ですから、気合も違いますよ」

 

――『藤娘』の魅力も七之助さんからぜひお願いします。

七之助「歌舞伎女形の中でもっともポピュラーですよね。踊りを実際に見たことはなくても、藤の絵柄を見れば、ああ、あれねと多くの方がわかるほどに。もちろん音楽も、装置も、振りも、素晴らしい。女心を踊りますが、お酒に酔って踊るところもあり、ここが難しい。同じ振りを繰り返しても違うんです。目でも耳でも楽しめ、歌舞伎の踊りが初めての方にも見やすい演目ではないかと思います」

 

――昨年好評の歌舞伎塾を今年もされますね。

勘九郎「東京では国立劇場で歌舞伎鑑賞教室をしておりますが、全国にお届けするのはなかなか難しいことなので、すごくいい機会ですね。昨年も反響が良かったです。裏はこうなっていたのかと感嘆の声も多かったですし、その後の舞台にも影響が及ぶ。衣装、頭、顔のこしらえを説明してからの上演は、すんなり入っていただきやすかったようです」

七之助「過去にも「芸談」として言葉での解説はしていましたが、実際に行って目で見せると、お客様への伝わり方がぜんぜん違いました。ここはこういう人が手伝って、この部分は自分でやっているのかと、裏側を目で見られるのが良かったようです。兄も言ったように、その後の反応がまったく違ってくることも、やりがいを感じる点でした」

 

――『全国芝居小屋錦秋特別公演』では8カ所めぐられます。どんな楽しみを抱いていますか?

勘九郎「父がよく言っていました、芝居小屋は鑑賞用ではなく、命を吹き込まなければ芝居小屋にならない、と。僕らが演じ、お客様がそれを見る、そうして命が吹き込まれた瞬間、芝居小屋そのものに命が宿ってパワーがいただける。それはもう本当に楽しみです」

七之助「芝居小屋に来られるお客様はとても熱いんです。舞台と客席の距離が限りなくゼロに近い、気持ち的にも、距離的にも。お客様がぐっと芝居に入ってくださる感覚でした。父の襲名の巡業での話ですが、夜になると虫の声が聞こえてくるんです。本来は家っていうのはこういう感じなんだろうね、と父も言っており、そういうリアルさの中でシーンとした場面、お客様がぐうーっとのめり込んでくださる。演じていて、あれは本当に楽しかった。それから、生まれて初めておひねりをいただきましたのも芝居小屋の思い出です。当たると結構痛くて、心は温まりますが表面は痛かった(笑)。貴重な体験ですね。また経験できるかと思うと楽しみです」

 

――錦秋の巡業はそもそも、ファンの方から、地方から歌舞伎を観に行くのは大変、というお手紙をいただいたのがきっかけで、それならこちらから出向こうという主旨とか。出向くことで、いっそうお客様の気持ちと近づくと感じられますか?

勘九郎「それはもう、“待ってました!”感が半端ないんですよ。前のめりのご鑑賞はおやめください、なんですが、皆さん前のめりで、役者としてはうれしい限り。ただ、後ろのお客様をご考慮いただいて(笑)。全力でお応えしなければと思っています」

七之助「この公演(錦秋)を機に、歌舞伎が好きになったといっていただくようになったのがうれしいですね。われわれのファンになってくれと言うんではなく(笑)、歌舞伎そのものを好きになり、いろんなジャンルの歌舞伎を見てくださる方が増え、やってきたかいがあったと強く思います」
中村七之助様

 

――行く先々で、すこしはゆっくりできそうですか?

勘九郎「できる?(スタッフに目で確認して)……ところもあるようです(笑)。岐阜は日本一芝居小屋の多い県と言われますが、弟は加子母(かしも)明治座の、僕は東座(あずまざ)の館長ですし」

七之助「就任してまだ一度も行っていない……、って、すごい話ですよね(笑)」

勘九郎「館長として話をしないと……?」

七之助「ここをこうしてとか、気づいたことは言っていいんですよね(笑)?」

勘九郎「今回めぐる各所にそれぞれの思いがあります。金丸座(香川・琴平町)は長らく行けておらず久しぶり。大好きだった山本のおばちゃん(山本卓子さん。毎年、金丸座で上演される「こんぴら歌舞伎」の際、 “お練り”として開幕前に出演者が沿道を練り歩く際にまかれる紙ふぶきを長年にわたり手作りで作り続けた)が亡くなってから初なので、お線香をあげに行きたいと思います。内子座(愛媛・喜多郡内子町)は住宅街の一角に突如として現れる不思議な小屋で、ロケでは行きましたが演じるのは初めて。八千代座(熊本・山鹿市)も初めてで」

七之助「え? そうだったの?」

勘九郎「そうなのよ。いいですよね。ここ」

七之助「和洋折衷の雰囲気が、ほかとはまた違います」

勘九郎「2019年のNHK大河ドラマで熊本県出身の金栗四三さんをやらせていただくので、お墓参りに行こうと思います。嘉穂劇場(福岡・飯塚市)は子どものころから行っていました。ながめ余興場(群馬・みどり市)は僕も弟も初めましてで、それぞれにさまざまな思い入れがありますね。こうした芝居小屋というものは、町の“心”で建っているものなんです。保存し継承することは本当に大変だと思います。町の気持ちが強いので、大きな力を与えてくれますよ」

 

――芝居小屋の特別公演と、恒例の全国ホール公演、どちらのお客様にもメッセージをお願いします。

勘九郎「芝居小屋公演は地元の方が多く、チケット発売日は朝4時から並んでくださったと聞きました。励んで伺いますので、どうぞ待っていてくださいね。特別公演(ホール)では、福井が初めてで、山梨はお久しぶりです。また、大阪は森ノ宮ピロティホールになりました。いずれも、1日の公演のために多くの方が詰めかけてくださる、本当に有難いことです。来年は見なくてもういいや、と思われないようしっかり踊ります」

七之助「なかなか本興行で『棒しばり』『藤娘』を踊ることはなく、次は何年先になるかわかりませんので、このチャンスを逃さず見に来てください。鶴松の初役もぜひ楽しみに見ていただきたいと思います!」

 

観客の想いに“限りなく近い”勘九郎と七之助の2人、そして初役に挑む鶴松。秋の1日を彼らの舞いで華麗に満喫してほしい。

 

取材・文/丸古玲子

 

【公演概要】
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中村勘九郎 中村七之助 全国芝居小屋錦秋特別公演 2017

日程・会場:
11/3(金) 岐阜・かしも明治座
11/4(土) 岐阜・東座
11/5(日) 岐阜・相生座
11/10(金)・11(土) 香川・旧金毘羅大芝居 金丸座
11/14(火) 愛媛・内子座
11/16(木)・17(金) 熊本・八千代座
11/18(土)・19(日) 福岡・嘉穂劇場
11/25(土)・26(日) 群馬・ながめ余興場

 

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中村勘九郎 中村七之助 特別公演

日程・会場:
11/7(火) 東京・文京シビックホール 大ホール
11/8(水) 福井・福井フェニックスプラザ
11/21(火) 大阪・森ノ宮ピロティホール
11/22(水) 兵庫県立芸術文化センターKOBELCO 大ホール
11/23(木) 山梨・コラニー文化ホール 大ホール

 

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歌舞伎塾
出演:
中村勘九郎
中村七之助
 
棒しばり
出演:
次郎冠者:中村勘九郎
太郎冠者:中村鶴松
曽根松兵衛:中村小三郎
 
藤娘
出演:
藤の精:中村七之助