・インタビューしちゃいました!! 2016-12-09 11:01

「お気に召すまま」マイケル・メイヤー&柚希礼音 インタビュー

okinimesumama_01

 

「お気に召すまま」はラブコメディとして史上最高(マイケル)
すごくリアルな、血の通ったシェイクスピアになれば(柚希)

 

ブロードウェイを賑わせ、世界の演劇界を牽引している鬼才マイケル・メイヤーが、日本で初めて演出を手掛けることになった。演目はシェイクスピア作の傑作喜劇「お気に召すまま」。音楽は作曲家のトム・キットが務め、ともにトニー賞に輝く2人がタッグを組み、時代設定も1600年代から1967年と大胆に置き換えて、ポップでロックなシェイクスピアを作り上げる。主演のロザリンドを演じるのは、宝塚歌劇の元星組トップスター柚希礼音。稽古が始まって1週間という中の稽古場にお邪魔して、マイケルと柚希の2人に話を聞いた。

――今回の「お気に召すまま」は、時代設定の変更もさることながら宮廷はワシントンD.C.に、アーデンの森はヒッピーの聖地・ヘイト・アシュベリーに変わるなど、とても大胆な試みで上演されます。どういった経緯でこのような設定になったのでしょうか?

マイケル 英語圏では、シェイクスピア作品であっても何かしら手を加えるものなんです。何年も前に今回のお話しをいただいていたんですが、「お気に召すまま」に関してもすでにこのアイデアが私の中にありました。もう、本当にめちゃくちゃアメリカンなバージョンを上演したいと思っていたんです。それで、日本でどうかな?と思ってお返事したら、ぜひ、ということになりました。物語のことを考えるとき、いつも自分が生きてきた時代だったらどうなんだろう?って想像するんですよ。私は1960年代だった子供のころ、ワシントンD.C.の郊外で育ち、父は政府の仕事をしていて、ベビーシッターはヒッピーでしたから。

 

――今日で稽古が始まって1週間だそうですが、お互いの印象はいかがですか?

マイケル ちえさん(柚希の愛称)は本当に才能が豊かで面白く、とっても勇気があります。それに、チャーミングですね。私はかなり挑戦的で難しいことをお願いしているんですが、積極的に、オープンに試してくれるんですね。本当にクレイジーなこともね。そのスタンスを見ていて、頭が下がる思いですし、大きな感謝を感じています。
柚希 メイヤーさんの作品に出演できることは本当に光栄だと思っています。毎日、本当にすごい方だと実感しているんですよ。思いつきと計算力の両方が混ざり合い、新しいアイデアがどんどん出てきて、毎日が本当に楽しい。それでいて、厳しいんです。それがとっても、ありがたくて。ロザリンドという役に向かうには何が足りないのかを言ってくださるんです。「その歩き方が嫌だ」とか「その靴は嫌だ」とか、見た目の部分も含めて。なぜそうするのかの意味をすごく教えてくださるので、今は山積みで本当に大変ですけど(笑)、出会えて本当に幸せだと思っています。

 

――柚希さんが演じるロザリンドは、劇中で男の子に扮しますが、宝塚での男役の経験が役に立つのでは?

マイケル 男性の役しか演じたことがないと聞いていたので、私にとってはそれが逆にびっくりしました。そういう文化や伝統が我々にはなかったので。男性を演じるにあたって何が必要かということをわかっていてくれるので、その部分については何も心配していません。セリフの中の繊細な言葉遊びなど、それ以外のことをお願いすることができる。また、逆にちえさんが、シャネルのようなドレス姿になるのはとても楽しみにしています。皆さんにとっても素敵な楽しみになるんじゃないでしょうか。

柚希 女性として振る舞うシーンは短いとはいえ初めての経験なので、どのように歩き、どのように立つかというところも、ワンピースになることも、戸惑いました。メイヤーさんからの提案がとってもかわいらしいので、刺激を受けながら挑戦しています。男の子になる部分も、長年培った男役ではなく、ロザリンドが身分を隠して、頑張って男を演じているという設定があるので、宝塚での男役とも違った、愛らしくて、コケティッシュな魅力を感じてもらえるようにできればいいなと思っています。

 

――宝塚との男役とも違う、新たな挑戦になりますね。

柚希 宝塚の男役には、100年以上続いた伝統があります。皆さんが、こうしたほうがより男らしく見える、ということをたくさん教えてくださる中で育ち、それを真似して自分なりのものを作っていきました。今、外に出てみると、自分本体の感情がどのセリフ、どの動きでも生きていないと、女をしても男をしてもダメなんだと感じています。女の子の心、男の子の心っていうよりも、観ている人が「うん、わかる!」って思ってもらえるように、私自身の感情をより出せるようにしたいと思っています。

 

――メイヤーさんから見て、今回のカンパニーの印象はいかがでしょうか。
マイケル ちえさんは特別なのでひとまず置いておいて、その他の方のことをお話しすると…。初日の本読みのとき、本当にいろいろなアプローチがあるなと思いました。まるで黒澤映画「七人の侍」の出演者なんじゃないかと思うほどのパフォーマンスを見せてくれた方がいる一方で、注意深く役を模索されている方など、本当に幅が広くいろいろ。どの役者さんもそれぞれに興味深いですね。これから数週間かけて、全員を同じゾーンに持っていくようにしていきたいと思います。そういう中で、経験豊富な男性陣の方々は頼りにしています。何年も何年も古典的なお芝居をされてきたからこその知識と経験には頭が下がりますし、そういうエキスパートな方がカンパニーに参加してくれていることは、とてもありがたいですね。

 

――シェイクスピア作品はセリフの面白さも魅力です。どのように作っていっていらっしゃるんでしょうか?

マイケル 通訳や翻訳の部分は本当に大変です。日本の皆さんが持っている日本語の台本と、私が持っている英語の台本があるんですが、ちえさんは日本語の台本から自分なりの言葉として、私は英語の台本から私の言葉として理解しますよね。そして、私の言葉を通訳したときに、ちえさんは「日本語の台本はそうじゃない」となるんです。それをさらに通訳して、私に戻して、それをまたちえさんに…。それを繰り返して、最後に「この言葉だ!」と同意に達する。そしたら、また次のセリフで同じことをします。たくさんの言葉の中からどの言葉を選ぶかは、まさに「お気に召すまま」です(笑)。

柚希 「この言い回しで、日本のお客様は本当に面白いの?」とマイケルが、すごく責任をもって、全部確認してくださるから、これがとても大変な作業なんです。ロックでポップな世界だけど、セリフは日本で訳されたシェイクスピアを使うのが逆に面白いということで、古風な言い方をあえて使う部分もある。この日本語で、英語では韻を踏んでいることが分かるかな?とか、字で読んだら面白いけど、声にしたらあんまり面白くないとか…。すごく大変です(笑)。

マイケル でも、楽しいですよ。うまくいくと、それを共有して、感じることができますから。その一瞬を、どの瞬間をとっても、しっかりと感じ取っていただきたい。古風すぎることにこだわりたくはないし、シェイクスピアの比喩を日本語で生かしてあげたい。それができたときは、とても興奮する瞬間だし、その価値があったという達成感がありますね。

柚希 あまりに言葉巧みすぎる表現になりすぎていないか、現代の人が笑える日本語になっているか。でも、シェイクスピアの素晴らしい表現ってあるじゃないですか。リアルとシェイクスピアの魅力がちゃんと混ざり合った舞台を、マイケルが追求してくださっています。すごくリアルな、血の通ったシェイクスピアになればと思っています。

マイケル
「お気に召すまま」はラブコメディとして、史上最高のものだと思っています。私にとってはすでにいろいろなことを学ばせてもらった作品ですが、日本の役者さんと今回一緒にやることで、アメリカでやる以上に、シェイクスピアに対する理解が深まっているように感じています。稽古場での芝居を観て私が感じている喜びを、少しでもお客様に感じてもらえればと。そして、シアタークリエで盛大なパーティーが開かれるように、願っています。

 

取材・文:宮崎新之

 

【プロフィール】
マイケル・メイヤー
1960年生まれ、アメリカ出身。ミュージカルの演出をはじめ、オペラ、演劇、映画などの演出や監督として活躍する。数々の賞に輝き、2014年には「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」の演出でトニー賞4部門を受賞。現在、オフブロードウェイにて新作「ラブ、ラブ、ラブ」が上演中。

 

柚希礼音
ユズキ・レオン 大阪府出身。宝塚歌劇団に入団し、1999年に初舞台。2009年に星組のトップスターに就任し、「ロミオとジュリエット」など数々の作品で主演を果たす。宝塚歌劇100周年となる2014年には日本武道館でリサイタルを成功させた。2015年に同団を退団。女優として舞台やミュージカルへの出演が続いている。

 

【公演情報】
「お気に召すまま」

作:ウィリアム・シェイクスピア
演出:マイケル・メイヤー
音楽:トム・キット
出演:柚希礼音、ジュリアン、橋本さとし、横田栄司、伊礼彼方、芋洗坂係長、平野良、古畑新之、平田薫、武田幸三、入絵加奈子、新川將人、俵木藤汰、青山達三、マイコ、小野武彦ほか

 

日程・会場:2017/1/4(水)〜2/4(土) シアタークリエ(東京)