・NEWS 2017-05-26 09:55

『チック』 世界中で愛されている児童文学をもとにした ドイツで話題沸騰のロードムービー風舞台、本邦初演!

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夏休み、少年2人は車で旅に出る。
思春期特有の疾走感と切なさがつまった、ひと夏の冒険譚。
―― 小さい頃から、父さんに世の中は最悪で、人間はみんな最悪だって聞かされていた。
もしかしたら、それもあっているかもしれない、99%の人間が最悪なのかもしれない。
でも、不思議なことに、チックと俺は旅で最悪じゃない1%の人に出会った ――

 

世田谷パブリックシアター20 周年の夏は、世界26 カ国で愛されている児童文学をもとにしたドイツで話題沸騰のロードムービー風舞台を本邦初演!
ミリオンセラーを誇るドイツ児童文学賞受賞小説「Tschick」を舞台化した『チック』は、14歳の冴えない少年マイクとロシア移民の転校生チックの2人の少年が、夏休みに盗んだ車で旅をするというロード・ムービーさながらの物語です。
2011 年にドイツで初演、翌シーズンではドイツ国内で最も上演された舞台作品となり、現在でもなお上演の度にチケット完売が続くなど、大成功を収めています。また16 年には同原作の映画版がドイツにて封切られ、いよいよ9 月には日本で公開されます。
ドイツで火がつき、今や世界を巻き込む勢いの少年2人の物語が、今年8月、シアタートラムにて本邦初演を果たします。


ドイツ出身、期待の“ネクスト・ジェネレーション” 小山ゆうなが翻訳・演出を手掛け、14 歳の少年を柄本時生、篠山輝信が演じる!

開場20 周年を迎えた世田谷パブリックシアターは、舞台芸術界の来るべき未来を担う新しい才能や、レパートリーとして長く上演しうる作品の発掘・紹介にますます力を入れていく所存です。20 周年の夏に皆様にご紹介しますのは、ドイツ・ハンブルグ出身の若手・小山ゆうな。自らの手で翻訳も行い、長年あたためてきた本作の念願の日本初演を手掛けます。
たった数日間の旅で、それまでの価値観が一変するような大きな経験をする2人の14 歳―― 不敵なたたずまいのアジア系ロシア移民チックを柄本時生が、クラスでは目立たないタイプだが魅力を秘めたドイツの少年マイクを篠山輝信が演じます。
観客は少年2人が運転するオンボロ車にともに乗り込み、彼らとともにひと夏の旅に出かける気持ちになることでしょう。子どもはワクワクし、そして大人は14 歳の自分と大人の自分の両方の感情が入り交じり、最後は夏にピッタリの爽やかな気持ちになっていただけるような舞台を目指します。誰もが持っている感覚や思い出を、『チック』という物語を通して舞台上にたちのぼらせます。

 

【ストーリー】
― チックがいなかったら全て、決してこの夏に体験できなかった。
めちゃめちゃいい夏で、最高の夏だったと思った ―

マイク(篠山輝信)は14 歳、ベルリンのギムナジウムに通う8年生。アルコール依存症の母(あめくみちこ)と、その母と喧嘩ばかりで家庭を顧みない父(大鷹明良)、そして気になる女の子だけでなく誰からも見向きもされない、あだ名もつけられない退屈な学校生活……“出口なし”の日常に嫌気がさしている。ある日そんな生活に大きな風穴をあける、転校生チック(柄本時生)がやってくる。彼はロシアからの移民らしく、風変りで得体のしれない雰囲気をかもしだしている。夏休みが始まり、いつにも増して最悪な気分のマイクの元に、チックは突然車を乗りつけてきた。
― どっか連れて行こうか? 乗れよ ―
チックいわく“借りた”というオンボロなラーダ・ニーヴァ(ロシアのSUV)に乗り込み、チックのおじいさんが住んでいるというワラキア(ルーマニアの地方、またはドイツ語で「僻地」という意味)を目指し、2人だけの旅が始まる。見知らぬ大家族の家で味わう見たことも聞いたこともないけど“めちゃめちゃ美味い”料理、ゴミ山で出会う
格好は汚いけど利発な少女イザ(土井ケイト)、いきなり銃撃してきたあとに昔話をするフリッケじいさん……旅先で出会う、一癖も二癖もある人たち。チックとマイクは、旅の中で、これまで見えていた世界とは違う新しい景色と出会っていく。

 

【『Tschick』児童小説から舞台、映画へ】
原作は2013 年に早世した才能あふれるドイツの作家ヴォルフガング・ヘルンドルフにより書かれた、児童文学「Tschick」です。10 年、ヘルンドルフが自身の病気を知った直後に執筆・出版された本作は、一躍旋風を巻き起こし、ドイツ国内で一年以上にわたりベストセラーを記録、220 万部以上を売り上げました。ドイツ児童文学賞などを受賞し、日本でも13 年に「14 歳、ぼくらの疾走:マイクとチック」(小峰書店)という邦題で出版されています。現在は26 カ国で翻訳され、まさに世界中で愛されている小説です。
舞台版も大成功を収めています。11 年末にドイツ座とドレスデン州立劇場にてほぼ同時期に初演(*)、瞬く間に評判を呼び、12/13 年のシーズンでは29 のプロダクションにより上演され、述べ764 回の公演数を記録。ゲーテ、シラー、シェイクスピア作品を上回りそのシーズンの最多上演作品となりました。さらに13/14年は計954 回、14/15 年は計1,156 回と、シーズンごとの公演数は驚異的な伸びを見せました。現在でも、ドイツ座を始め様々な劇場で上演されており、チケットの入手が難しい評判作として知られています。
*2011/11/19 ドレスデン州立劇場(演出:Jan Gehle)、2011/12/3 ドイツ座(演出:Alexander Riemenschneider)にて初演また、原作の映画版「Tschick」(原題/監督:ファティ・アキン)は昨年ドイツで封切られた後、世界各国で公開され、いよいよ日本でも「50 年後のボクたちは」という邦題で9 月16 日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほかにて全国順次公開されます。
ドイツでは刑事罰にあたらない最後の年齢である“14 歳”特有の思春期の悩み、複雑な家庭環境、そして世界が抱える移民問題をも映し出す、普遍的でありながらも同時代作品ならではの刺激に満ちています。

 

【『チック』 上演に向けて ― 小山ゆうな(翻訳・演出)】
2010年に脳腫瘍が見付かり、2013年に48歳で自らの命を絶ったヘルンドルフは、病気がわかった直後に『チック』を書いた。その6年前に、短編として書いた作品を長編にのばしたものものだが、強く死を意識したヘルンドルフは何故この14歳の少年二人の物語を書いたのか。14歳という良い事も悪い事もビビットに感じられ、様々な事が凝縮される時期の少年達を通して、社会の一般常識やルールがいかに、その枠から外れてしまった者にとって残酷か、本当に大切な事を見失わせる可能性を秘めているかを描いた事が多くの人の心をとらえ、国をこえ、時代をこえ、本だけで26カ国語に訳され、演劇もドイツではやられていない公共劇場は無い程の広がりを見せている。

チックは、ロシアからの移民だ。ロシア帝国時代に耕地開拓の人員確保の為にドイツから誘致されたドイツ人の子孫で、その多くがスターリン時代には中央アジアに追放され、戦後はドイツに帰国したが、二世、三世はドイツ語が出来ず、ドイツでも厳しい環境におかれた。チックはそんなドイツパスポートを持つドイツ系ロシア人で、社会と政治的歴史に翻弄された内の一人なのだ。とはいえ、14歳のチックはその事を悲観する事なく、ただ生まれつきそうだった現実として受け入れている。しかし彼に与えられた環境が彼を孤立させている事は間違いなく、ドイツには多くのこのような厳しい環境に身を置く移民がいる。ロシアとドイツの歴史については、別の登場人物である、ナチス時代の元軍人フリッケによっても語られており、大きく変化をしていくドイツの政治的スタンスが多くの人の人生を翻弄し決定付けていく現実を浮かび上がらせている。
本作品にはこのようなドイツの重い歴史を背景としたエピソードもあるが、重い歴史が中心的テーマにはならず、あくまで当たり前の事として存在し、きっと誰もが共感出来るエピソードを積み重ね、その中で人々が生きている姿を描き、その事が他にありそうでないこの作品の魅力となり、様々な賞を受賞し高い評価を受ける作品とさせている。ドイツの全国紙フランクフルターアルゲマイン紙にも、作中の「50年後どうなってるんだろう」という台詞にかけた洒落たレビューとして「50年後も読まれる作品」と載った。

戯曲版を書いたロベルト・コアルは、ルネ・マグリット的なユーモアと哲学に満ちた絵を描く画家でもあるヘルンドルフが既成概念にとらわれない自由な表現を好んだのと同様に、原作の言葉を崩さずに半分以上一人称で語られる作り手に表現を委ねる形で戯曲化している。今回、この委ねられている部分を、どのような想像力と遊び心で表現し、正に今の日本で上演する『チック』にしていく事が出来るかが鍵となる。

14歳のチックが古いロシア車ラーダ・ニーヴァを盗んで(本人いわく借りて)マイクを誘いに来る。そして二人は旅に出る。

複雑に絡み合い、真実や大切な事を見失いそうになる現代社会で、どう生きるのか、死を意識したヘルンドルフが、正に疾走する少年達に重ねて、生きる事について全エネルギーを注いで紡ぎだした美しい言葉一つ一つにヒントが見いだされ、日本のお客様の心をとらえるものとなる事を祈っている。

 

【キャスト】
風変りで周囲に染まらない14 歳の少年チックを柄本時生が演じます。映画やテレビドラマでの活躍だけでなく、故・松本雄吉や森新太郎など、さまざまな演出家からの信頼を得る演技力と、唯一無二の存在感を持つ柄本が、独特な雰囲気を持ちマイクの人生を変えていくチックをどのように演じるのか、期待が高まります。
チックとともに旅に出るマイクを篠山輝信が演じます。現在、NHK「あさイチ」などテレビ番組での活躍目覚ましい篠山は、特に舞台への出演を熱望していました。小山は「マイクは自分を退屈だと表現するが、本当は人を引き付ける魅力を持っている。篠山にも同じ魅力を感じている」と期待を寄せています。篠山とマイクのどこか放っておけない魅力的な一面が重なり、観客の心をつかんでいくことでしょう。
チックとマイクが旅先で出会う少女イザ、そしてクラスのマドンナ・タチアーナを土井ケイトが演じます。故・蜷川幸雄が立ち上げた「さいたまネクストシアター」の旗揚げメンバーの中でも光る演技力で注目され、今年5月の藤田俊太郎演出の二人芝居『ダニーと紺碧の海』ではヒロインに抜擢されています。今後の活躍が期待される土井が、汚くて綺麗な2人の女の子をフレッシュな演技で表現します。
マイクの母親役をあめくみちこが演じます。アルコール依存症で過激な言動の多い女性ですが、だからこそ思春期のマイクにとって、そしてこの物語にとって重要な意味を持つ存在であり、もう一人のキーパーソンであるといえます。“最低”だがどうしても憎めない存在の母親役で、あめくの求心力がいかんなく発揮されます。あめくと大鷹はそのほかにも少年たちを取り巻く様々な大人を演じます。大鷹明良は、マイクにとって“大人”の代名詞でもある父親役やワーゲンバッハ先生、旅先で出会うフリッケじいさんなど物語の要となる複数の役を演じます。特に、旅の途中で登場するフリッケじいさんは、ドイツの戦争と移民の歴史を語る存在です。彼が語る内容は、少年たちのルーツ、ひいては現在社会が直面する移民問題のルーツにも関わり、物語にさらなる深みを与えています。そのほか旅先で出会う少年まで、変幻自在の大鷹の演技力により物語が鮮やかに展開していきます。

 

【公演概要】
『チック』

日程・会場:
8/13(日)~27(日) 東京・シアタートラム
9/5(火)・6(水) 兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

原作:ヴォルフガング・ヘルンドルフ
上演台本:ロベルト・コアル
翻訳・演出:小山ゆうな

出演:
柄本時生 篠山輝信 土井ケイト あめくみちこ 大鷹明良

★詳しいチケット情報は下記ボタンにて!