・取材してきました! 2017-04-11 15:58

赤坂大歌舞伎「夢幻恋双紙 赤目の転生」囲み取材&公開舞台稽古レポート

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「耳でも目でも楽しめる完成度の高い作品」と出来栄えに自信

 

中村勘九郎、中村七之助らが出演する赤坂大歌舞伎「夢幻恋双紙 赤目の転生」が初日を迎えた。前日に行われた囲み取材では「自信を持って初日を迎えられる」と待望の新作公演に意気込みを見せた。

故・中村勘三郎の声により開始され、今回で5回目を迎える赤坂大歌舞伎。今回は、長屋に暮らす男・太郎(中村勘九郎)が、長屋に越してきた訳ありそうな女・歌(中村七之助)を幸せにするために何度も転生を繰り返していくという幻想的な物語を展開する。本作は赤坂大歌舞伎では初となる新作となり、作・演出を第20回鶴屋南北戯曲賞(「母と惑星について、および自転する女たちの記録」)を受賞した新進の劇作家、蓬莱竜太が手がける。各人のコメントは下記の通り。

 

中村七之助
「稽古を積んで、自信をもって初日を迎えられると思います。まだゲネプロ、初日の前の稽古もありますから、万全の状態で一生懸命やらせていただきます」

 

中村勘九郎
「念願叶って蓬莱竜太さんに作・演出をしていただきました。すごく充実した稽古期間を過ごせたのではないかと思っています。まず本が素晴らしい。美術も作品の世界観にマッチしていて、耳でも目でも楽しめる完成度の高い作品になりました。ひとりでも多くのお客様に想いを届けられたらと」

 

蓬莱竜太
「歌舞伎の役者さんたちが『新しい歌舞伎だね』、と言ってくださっています。歌舞伎と演劇をミックスした作品になっているので、演劇のお客さんが観ると歌舞伎の面白さを十分に堪能できるし、歌舞伎のお客さんが観ると演劇の面白さを味わえるんじゃないかと。ぜひ観に来ていただきたいです」

 

何度も転生を繰り返してその度に違った性格の太郎を演じる勘九郎は、役について「どうにか彼を幸せにしてあげたいんですけど…。一方的な愛ですから。だから今、不幸です」とかなり役に没入。その恋慕の相手で歌舞伎仲間には“理想的な女”と絶賛される歌を演じる七之助は「歌は表面的にはとってもいい人だけれども、心の中では…悪いって訳じゃないけど人間のなくてはならない感情が渦巻いている。モデルは全世界の女性です」と、役を通じて女性の表面と内面の違いを分析していた。

本作では劇中、切り絵やピアノを取り入れるなど新たな試みも行われることが明かされている。過去エレキギターやトランペットを取り入れたことがあるものの、意外にもピアノは初めてとのことで「こんなに歌舞伎とピアノが合うんだと驚きました。稽古場で感情移入しすぎて引っ張られてしまいました」(勘九郎)と絶妙なマッチングを実感していた。

その他の出演者も「お客さんの反応を早く知りたい」(中村亀蔵)、「ドキドキが止まらない」(中村いてう)、「お客さんの感想を聞きたいですね」(中村猿弥)と、初日を前に早く観客に披露したい思いが溢れていた。また「蓬莱さんに2作目、3作目を作ってもらえるような反応をお客さんにさせるつもり」(中村亀鶴)と成功への強い決意を口にした。

中村鶴松の「お兄様たちのもとで大きなお役をやらせていただけて嬉しく思います」というコメントには、勘九郎から「全然思ってない!」と突っ込みが入り、さらに七之助が「チャラチャラしないでひとつの恋愛をしっかりしてほしい。相席屋ばかり行ってないで」と冗談めかして暴露。それを受け鶴松も「2回しか行ってない!」と自ら明かしてしまっていた。小気味よいやりとりに出演者たちの仲の良さがうかがえ、記者らの笑いを誘った。

 

公開舞台稽古レポート

囲み取材の後には、全5幕のうち2幕まで記者に舞台稽古が公開された。

時は江戸。長屋に暮らす家事に忙しい女たちは、洗濯の傍ら新しく長屋に越してきた女・歌の噂話に花を咲かせる。長屋の男たちは誰もが歌に魅了されているようで、少々面白くないようだ。

 

大きな木の下で遊ぶ12歳の少年ら、剛太、末吉、太郎の3人も歌に心を奪われていた。以前と扱いが変ってしまった静は、やはり不満気。3人が描いてきた歌の似顔絵も「見ない!」と声を上げる。のんびり屋の太郎は剛太や末吉から「のび」とあだ名をつけられ、ダメな奴だと揶揄される。だが歌は太郎の絵だけを貰い「大切にする」と声をかけた。

 

寝たきりの父を抱え、借金と粗野な兄・源之助に悩む歌の家に、太郎はおすそ分けを持って何度も尋ねる。やがて成長し、日ごとに苦労が滲んでくる歌に太郎は「そばにいるから!」と告白し夫婦になる。だが、太郎は仕事もせず何もかも歌に任せきりの挙句、手っ取り早く稼ぐため結果的に悪事に手を染めて殺されてしまう。

 

ふと気がつくと、太郎はあの似顔絵の日、12歳のころに戻っていた。今度こそ、歌を幸せにしてみせると誓う太郎。そこにはダメな太郎は微塵も感じられず、暴力も金を得るための悪事も厭わない。そんな太郎の姿を、歌は驚きと悲しみをまとった目で見つめる…。

 

1幕ではあんなに情けなく、笑いを誘うほどダメだった太郎が、2幕では豹変。人を顎で使い、刃物を手に大立ち回りを披露する姿は同じ人物かと思うほど。この1作の中でたくさんの勘九郎を堪能できそうだ。そして、そっと沿うように微笑む歌は奥ゆかしく、謎めいている。繰り返した転生の果てに二人がどうなっていくのか、期待に胸が膨らんだ。

 

台詞は現代語で、どこかで観たような人物関係にすんなりと作品世界に入り込める。松井るみによる切り絵を彷彿とさせる舞台美術は影絵や浮世絵のような風合いで、転生を繰り返すという物語にあった幻想的な世界観を演出していた。

 

男と女の業がたっぷりと描かれた赤坂大歌舞伎『夢幻恋双紙 赤目の転生』は、4/25(火)まで東京・赤坂ACTシアターにて上演される。

 

取材・文/宮崎新之

撮影/ローチケ演劇部

 

【公演情報】

赤坂大歌舞伎 新作歌舞伎

『夢幻恋双紙 赤目の転生』

 

作・演出:蓬莱竜太
出演:中村勘九郎 中村七之助 市川猿弥 中村鶴松 中村いてう 中村亀鶴 片岡亀蔵

日程・会場:
2017/4/6(木)~25(火) TBS赤坂ACTシアター(東京)