・取材してきました! 2017-01-31 18:00

2017年4月上演決定!
赤坂大歌舞伎・新作歌舞伎『夢幻恋双紙(ゆまぼろしかこいぞうし)赤目の転生』
製作発表会見レポート

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中村勘九郎×中村七之助×蓬莱竜太が意気込み発表
恋愛・人間関係のあるある満載の転生物語に乞うご期待!

今年4月、東京・TBS赤坂ACTシアターにて上演が決定した「赤坂大歌舞伎」の製作発表会見。登壇者は、中村勘九郎、中村七之助、新作歌舞伎の作・演出を託された蓬莱竜太の3名。第一稿の台本があがったばかりというこのタイミングで、それぞれの口からリアルな期待と意気込みが語られた。

 

3人のコメントに先立ち挨拶した主催者・TBSテレビ菅井龍夫は、「“芸能の街・赤坂で歌舞伎を!”という十八代目中村勘三郎さんの一声で2008年に始まった赤坂大歌舞伎は、同年に開業したTBS赤坂ACTシアターの2008年のオープニングシリーズとして上演いたしました。第5回を数える今回は、劇場裏の桜並木が咲きそろう季節の上演。一人でも多くの方に観て楽しんでいただければ」。松竹の安孫子正副社長からは、「莱さんは初めて歌舞伎を書き下ろされますが、松竹とのお付き合いは、片岡愛之助さんと中村獅童さんの芝居(2009)で脚本を書いていただいてからのもの。十八代目勘三郎さんも野田秀樹さんや串田和美さんなど歌舞伎以外の才能ある演劇人と新しい方向性を見出されましたが、その遺志を継ぎ、中村屋さんご兄弟が莱さんと新作を作られます。才能と才能がぶつかり合う素晴らしいものになると思っております」と大いなる期待を見せた。

 

過去上演も大盛況だった「赤坂大歌舞伎」において、いよいよ新作の船出とあってか、緊張の中にも晴れがましい表情で居並ぶ3人のコメントはこちら。

 

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中村勘九郎(以下、勘九郎) ついにこの日(製作発表)がやってまいりました。いよいよ始まるぞ、という気合いが一段と入っております。TBS赤坂ACTシアターは、歌舞伎座の演目が演出を変えず上演できる、実に貴重な劇場です。2008年の父の『狐狸狐狸ばなし』に始まり、松羽目物『棒しばり』も踊れちゃう、山田洋二監督にも入っていただいた、『鷺娘』もやった。父が亡くなりもうできないかと思いましたができることになり、『怪談乳房榎』(十八代目中村勘三郎の当り狂言)もやった、七之助の七役早変わりもできた。ここまでなんでもできる小屋はそうそうないんです。前回公演の打ち上げで「新作を」と話したところご賛同いただき、念願が叶い、常日頃からアプローチしていた莱さんが書いてくださることになり(……ここで隣の莱に視線を向け)、本当に楽しみです。台本が出来ましたが、まあ、とんでもない話です。演劇界の大事件になると思います。

 

中村七之助(以下、七之助) 父が残してくれた赤坂大歌舞伎という一つの宝物で、新たなチャレンジをできるのは本当にうれしいことです。打ち上げで「次は新作だね」と、冗談半分本気半分で言っていましたが、兄がすぐに動いて実現に至り、言っておくもんだなと強く思いました。台本は素晴らしい、というか、もうすごいので、あとは役者がしっかりやらないとダメにしてしまう。楽しみであり、同じ方向をむいて一生懸命に稽古したいと思います。

 

蓬莱 大変なところにきてしまった!という思いです。普段は小さな劇場でこまごまと作っているもので、まさか歌舞伎になるとは。「書いてよ」と飲み屋話で言われていましたが、本気だとは思いませんでした。いいよと言ったことに後悔もありますが、名誉な仕事です。持てる力をすべて発揮し、お二人にぶつかりたいと思います。

 

気になるのは話の中身。配布資料のあらすじには、勘九郎が演じる、気が弱くパッとしないイマイチな男・太郎が、七之助が演じる、隣に越してきた女・歌に恋をし、絶対に幸せにすると夫婦になるが、蓋を開けると夫婦の生活は散々なもの。太郎は、歌の兄・源之助に殺されてしまい、ハッと目覚めると転生している、という荒唐無稽である。

 

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蓬莱 太郎には人間的な欠陥があり、器がなく、歌の兄にいつも監視されて、ダメだったら殺されちゃうんです。それで何度も転生し、前世のダメな部分を更新して別人格になるんですが、人ひとりを愛すること、幸せにすることは難しいもので……。

 

勘九郎 男性も女性も、恋をしたことがない人はいないと思うんですが、莱さんの本には、恋愛や人間関係の、こういうのあるわ! ああ、それ言っちゃ怒って帰っちゃうよ! ……なんていう日常のあるある恐怖が散りばめられている。読んでいてグサグサ来るんですよ(笑)。

 

七之助 身につまされることが多々ありますね。自分の思う愛と、相手の思う愛は違う、と頭でわかっていても、こうして活字で読むといっそう恐ろしく感じました(笑)。女性は結果論と言いますか、男性は本当に愛しているからそういうことをするんだけど、うまくいかない結果のところを突いてくるから、男性目線で言えば、足元をすくわれる感じも(笑)。うまく描かれているんですよ。このリアルな描写をどう歌舞伎にするか。稽古が楽しみです。

蓬莱  単純に、気弱な太郎、強い太郎、ひょうきんな太郎と、あらゆる勘九郎さんが見られるのも楽しみにしていただければ。それこそ歌舞伎のファンタジー。とてもスリリングな芝居になると思います。

 

勘九郎 実は、歌も、とんでもない女です(笑)。最後まで観ると、あ!ん?こういうこと!?となること、僕が保証します!

 

七之助 歌は、魅力的な女性ではもちろんありますが、かといってパーフェクトではない。ちょっと欠落している、その影に魅力があると思いました。僕が思うに、太郎が転生してもうまくいかない理由は、太郎も悪いけど、歌も悪い(笑)。悲劇のヒロインでもないですし、幸せをつかみたいけど、幸せが何かはわかっていない。自分に置き換えても、そうした影のある女性、自分をわきまえている女性は好きですね。

 

蓬莱 歌のヒミツ、抱えるものも、楽しみにしてください。

七之助 このお話は、太郎と歌だけでなく、友だちとの関係も出てくる。全員が主役ですよ。

 

蓬莱 幼なじみや隣人の人格や対応が変われば、こんなにも人生に影響があるのかと。転生して生きる世界はパラレルワールドみたいなもので、同じ人間の質が変わることで翻弄される、好き合ったり嫌い合ったりする。ダイナミックな舞台にしたいですね。

 

勘九郎 父も、野田さんなど「同世代の生きている作家に出会えたのは誇りだと思う、お前たちもいい人を見つけられたらいいね」と言っていました。だからではないけれど、僕らも蓬莱さんと新作ができるんじゃないかと、真剣にオファーしていましたよ(ここで再び、隣に熱視線!)。

 

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聞けば聞くほど煙に巻かれると同時に、“恋愛と人間関係の日常あるあるか!”とグッと身近に感じて興味が湧く。最後に、莱が、初の歌舞伎に寄せる思いを語ってくれた。

 

蓬莱 温めていたネタではなく、まるで用意してなかったんです。いままで自分がやってきたものからのインスパイアで作ろうと思っています。勘九郎さんは、「歌舞伎を意識して書く必要はない」と言ってくれました。あくまで自由にと。歌舞伎の書き方も言葉遣いもわからないけれど、わからないからやれるものがある。普段やっている作品そのまま、僕の中にある人間への興味を歌舞伎にぶつけたらどうなるか?という感じなんですね。勘三郎さんは、「歌舞伎役者がやればぜんぶ歌舞伎だ」とおっしゃられたとか。歌舞伎に携わってこられた役者さんは“地”が違いますから、その力を信じて書かせてもらっています。勘九郎さん、七之助さん、お二人からのインスピレーションももちろんあります。僕が見る限りのお二人の呼吸や存在感が、舞台上でどのように織りなされて歌舞伎になっていくんだろうと、いま僕が想像するビジョンと、稽古場で出来ていくビジョンへのワクワクが本当に強い。大変な仕事になりますが、そこが一番の原動力であることは間違いないです。共に歌舞伎が作れる、稽古場で目の当たりにできる、この喜びが、僕がいまここにいる理由です。あと、女性がいない、全員男性の稽古場は初めて。稽古終わりにぜひ飲みに行きたい(笑)。芝居のアイデアって飲み屋話で結構出るんですよね、バカみたいに話したいです。歌舞伎の人たちと飲んで世界の一端を見ることが楽しみです。

 

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会見の終わりには、赤坂芸妓の4人のお姐様方が登場し、「首を長くして待っております」と言葉を添えて花束を贈呈。「赤坂は街自体が艶っぽい。一生懸命に努めます」と勘九郎は答えた。

ちなみに、“転生”にかけて、「生まれ変わったら歌舞伎役者以外の何になりたい?」という質問に、勘九郎は「女性アイドル」、七之助は「お寿司屋さん」と即答。意外な回答に笑いが起きる中、めでたくお開き!

上演は、4月6日~25日。歌舞伎界を超えた演劇界すべてに吹き上がる新風を、見逃してはならない!

 

取材・文/丸古玲子

 

【プロフィール】

中村勘九郎
■ナカムラ カンクロウ 1981年10月生まれ、東京都出身。十八代目中村勘三郎の長男。‘86年に『盛綱陣屋』小三郎役で初お目見え。翌年に『門出二人桃太郎』兄の桃太郎役で二代目中村勘太郎を名のり初舞台を踏む。以降、歌舞伎以外に舞台『おくりびと』やテレビ、映画、ドラマなど幅広く活躍。2012年、父・十八代目中村勘三郎の前名である中村勘九郎を六代目として襲名した。

 

中村七之助
■ナカムラ シチノスケ 1983年5月生まれ、東京都出身。十八代目中村勘三郎の次男。‘86年に『檻』祭りの子勘吉役で初お目見え。翌年に『門出二人桃太郎』で二代目中村七之助を名のり初舞台を踏む。以降、『八月納涼歌舞伎』『平成中村座』などの人気公演に出演。海外公演にも精力的に取り組む。また、映画や歌舞伎以外の舞台など幅広く活躍している。

 

蓬莱竜太
■ホウライ リュウタ 1976年1月生まれ、兵庫県出身。‘99年に劇団「モダンスイマーズ」の旗揚げに参加。以降、全公演の作・演出を務める。そのほか、舞台版『世界の中心で、愛をさけぶ』や舞台版『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』などの話題作を担当し、骨太な筆致から若手劇作家として注目を集める。2009年、『まほろば』で第53回岸田國士戯曲賞受賞。

 

【公演情報】
赤坂大歌舞伎 新作歌舞伎
『夢幻恋双紙 赤目の転生』

 

作・演出:蓬莱竜太
出演:中村勘九郎 中村七之助ほか

 

日程・会場:2017/4/6(木)~25(火) TBS赤坂ACTシアター(東京)