・インタビューしちゃいました!! 2017-08-04 11:53

PARCO&CUBE 20th.present『人間風車』作・後藤ひろひと×演出・河原雅彦 対談

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後藤「ファンタスティックホラーとあるけど、僕が書いたのは7割コメディですから! そこから急転直下していきます」

河原「後藤さんの童話は本当にいい。マジでベストセラーになるやつです」

 

2003年の上演を最後に、鳴りを潜めていた『人間風車』が14年ぶりに新演出で上演される。売れない作家が子どもたちに聞かせるバカバカしい 童話に油断して爆笑していると、物語後半から急転直下、夢が悪夢へ、笑いは戦慄と号泣へ――。優れた舞台作品としてファンも多いが、14年の時を経たいま『人間風車』を知らない人も増えているはず。いったい何がそんなにおかしくて、何がそんなに恐怖なのか? そもそもの創り手である作家・後藤ひろひとと、2003年版ではサム役で出演し、今回演出を担うことになった河原雅彦のツーショットインタビューが、大阪拠点の後藤がタイミングよく東京・新宿で公演中であることを見計らって急きょ決定。『人間風車』誕生時の秘話もザックザクの、なんと初顔合わせ対談である!

――後藤さんと河原さん、お二人のお付き合いは長いのですか?

 

後藤 付き合いなんてないですよ。前作(2003年)で僕は出演してないから現場にもいなかったし。でも、ずっと知ってるよね。

 

河原 以前、HIGHLEG JESUSをやっていた時に一度ゲストで来てもらいましたよ。年越しのカウントダウンか何かで、深夜系のノリで。

 

後藤 そういえば、一回仕事したことがあるね。最初は全裸でだんだん服を着ていくという、わりと普通の終わり方をしたやつだ。

 

河原 そうそう。お客に通報されて本番中にお巡りさんが来ちゃって。いつ捕まるか緊張感はありましたけど(笑)。ただ、イベントだったので、ガッツリ芝居の接点ではないんです。

 

後藤 今回初めてメールアドレスを知りました。それくらいの距離感です。

 

河原 こんな対談もね。

 

後藤 たぶん、初めてじゃないかな?

 

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――脚本改訂の話し合いはどのように進んでいるのですか?

 

河原 後藤さんから、前回とはちょっとニュアンスを変えたいとご要望があって、聞くと、僕が考えていた方向性と似ていて。

 

後藤 劇団・遊気舎に書き下ろした初演が 1997年だから、最初に書いたのはもう20年前。え、僕まだ20代だった(笑)? その時、作品に込めた大切なものをもう一回取り戻したいと、ずうっとずうっと思って生きてきたんです。それが、今回リーダー(河原)が演出してくれることになり、お互い世代も近いし、演劇界のパンクなところの出身同士だしで、話してみたら、オリジナルが持っている大事な要素をリーダーはわかってくれていて。いまだ! いま書き直す時が来たんだ! と思って、部分的なリライトではなく、第1稿は戯曲の最初の一文字から書き直したんですよ。

 

河原 そこから直さなくても!と思いました(笑)。

 

後藤 いや、いまやらないと一生後悔するから。

 

――『人間風車』誕生時のオリジナルが持っている要素とは?

 

河原 なんですかね、生々しくて、ヒリヒリするような手触りが僕は好きなんですが、そういう感じかな。20年前の初稿は拝見していませんけど、噂では聞いていました。当時の遊気舎バージョンはもっとエッジが効いていた……と、これってカッコいい言い方なんですけどね。まあメチャクチャで、尖っていたって聞いていて、どんなものだったんだろうと興味があったんです。それ、僕も好きだと思って後藤さんと話して……、そんな風な直しです(笑)。

 

後藤 もともとはそんなにきれいな話ではなかったんです。しかも、昔より現代のほうが犯罪もタチが悪くなっているじゃない? その犯罪にこの刑罰でいいのかとか、個人的には悩むところもあって。いま伝えるべきことがあるんじゃないかと。

 

河原 おっ、社会派ですね。

 

後藤 根底にはあったのよ。それが、少しオブラートに包まれる表現になっちゃっていたというか、それはそれで完成していたんだけど。たとえば、主人公である童話作家の平川は、僕は、一生報われるべきではないと思ってるんです。

 

河原 なるほど……。いまはまだ言えないことも多いな。その辺の大きな改稿はまだ言えない(笑)。前回よりヒリヒリが増しているってことだけ言っておきましょうか。

 

 

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――そうすると、演出もガラッと変わりますか? お二人ともパンク出身とのことですし。

 

河原 どうかな? 今回、今時の若者も多く出演しますが…(笑)。

 

後藤 (フライヤーを見て)そうね、パンクはいないか(笑)。

 

河原 前半は、やっぱり童話の部分をね、ダメで愉快で、楽しいコミカルさもたくさんありますから。後藤さんのこの戯曲、本当によくできているんですけど、何がよくできているかって、舞台も客席も笑っているうちに、次第にどんどん話が巧みに絡み合って急転直下していくところ。童話が持っている夢や楽しさと、まったく逆の側面も使われている。いや、本当によくできた構成なんですよ。

 

後藤 ありがとうございます。一つ思い出したんだけど、僕がこの作品でおもしろいなと思っているのは、平川が、好意を寄せるアキラを自宅に招いて粗末ながら食事を一生懸命に振る舞おうとする場面でね。アキラを喜ばせようと、自分の童話を聞きに来るファンの中にバカがいてねと話し出すんですが、そこでお客さんが笑うんです。それ、成功なんですよ。なぜなら、笑うことでお客さんをどんどん共犯者にできるから。でも、あそこで笑いが来るんだよなって役者さんのほうは悩んでいて、いやいや違うんだ、それでいいんだって説明した覚えがありますね。僕はあそこがとても好きなんです。

 

河原 ホラーって、油断させてナンボですもんね。この戯曲が持っている、そういう力は変えたくはないと考えていますよ。

 

後藤 最初はバカバカしいところから始まる! 童話って入りやすいぶん、広げていったら奥はもっとおもしろいことになる。ストレートには行きにくい部分への入口として、童話は生きると思うんですよ。

 

河原 平川、アキラ、サム、この人たちは現実の人ですから。ファンタジーで物語を丸く納めることもできるけど、現実はなかなかそううまくいかないものじゃないですか。まあ……、その辺を、そんな感じで!

 

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――キャストへの期待はいかがですか?

 

後藤 数日前、僕がいま新宿でやっている舞台に加藤(諒)くんが来てくれて、第一印象がね、この子があの役(サム)をやると思ったら愛おしくて仕方なくなったの! リーダーが前にやった役でしょ。リーダーは抱きしめようとは思わないけど、加藤くんは抱きしめてあげたくなった。

 

河原 でしょうね(笑)。阿部(サダヲ)くんがやって、僕がやって、僕と阿部くんも資質が違うけど、諒は地球外生命体だから。資質以前にジャンルが全然違うから、どんなになるんだろうって楽しみですよ。僕は諒をよく知ってるぶん、まるで愛おしく思わないけど(笑)。

 

後藤 あら、長く会ってると愛おしくなくなるのか(笑)。

 

河原 うちにもよく遊びに来ていて、手巻き寿司をご馳走したんですけど、皿も洗わないし、誰も手をつけないヘンな炭酸飲料を買ってきて、それをまるっと残して帰るしで。

 

後藤 そこだよお、愛おしいのは。お邪魔したらちゃんとお皿を洗うんだよって教えてあげて、支えたくなるの(笑)。

 

河原 そっか……、確かに、愛でれるやつではあるか。思い出した(笑)。ミムラさんは取材でお会いしたけど、おもしろい方ですよ。絵本にかなり詳しくて、話出したら止まらないみたいな。

 

後藤 そうなんだ? ミムラさんも成河さんもまだ会ってなくて。

 

河原 成河は、何がやりたいのって聞きたくなるくらい(笑)、いろんな役を舞台でやっているけど、皆さんもご存知のように、とにかく恐ろしく身体が効くのでね。演劇界で三本の指に入るんじゃないかな。そんな彼が童話作家。じっとしてられるのかなって。ただ、心でかみ砕いて丁寧に役作りする人間だから、静かな芝居でもすごく威力があると思う。あと、子どもたちの役の何人かはオーディションしたんです。選抜メンバーですね。芸達者でないと演じきれない難しい戯曲ですから。

 

――ちなみに、後藤さん、王様役(2000年版出演)に未練は?

 

後藤 なんだってぇ。

 

河原 でしょ? 後藤さんに出てほしかったんですよ。なのに出ないって。

 

後藤 俳優はやめたの。看板下ろしました。自由にできるところにだけ出ます。

 

河原 これ、自由にできますけど。

 

後藤 そこはリーダーに預けますから。だって、もう遅いでしょ?

 

河原 平川の役でもよかったんですよ。

 

後藤 待て待て!出ませんよ!

 

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――脚本家としては、改稿している稽古前までのいまが、関わりどころなんですね。

 

後藤 そうです、稽古に入ったら一切なにも言わないです。求められれば言いますが、そうじゃねぇんだよ、みたいなことは一切言いたくないですね。

 

河原 第1稿をもらって、そこに対して東京―大阪間で充実した打ち合わせを電話でしました。いま第2稿を静かに待っているところで。

 

後藤 電話をしながらいっぱいメモしたのを、滞在中の東京のウィークリーマンションの部屋に貼ってやっていますよ。

 

河原 本当に!?

 

後藤 話が『人間風車』ですからね、メモに書いてある言葉がすごいの。だから、なんかあって部屋に立ち入りされたら変な人だと思われる。

 

河原 マズいですね、それ(笑)。

 

後藤 メモを一個ずつ潰していく感じで減ってはきていますが、まだいっぱいあります。

 

――“もう安心して見ることは許されない…!”とフライヤーのコピーにありますが。

 

後藤 この作品は、見終えてからいっぱい話してもらうのがいい戯曲だと思うんです。一緒に見に来た友だちとすぐに別れるんじゃなく、もうちょっと話していこうよってなってくれればいいなあと。エンターテイメントとして絶対におもしろいんだけど、ひょっとしたら、今回バージョンが嫌いな人はいるかもしれない。逆に、今回がすごく好きなんだという人も出てくると思う。いずれにしても心をいっぱい動かしてもらえる作品になると思うんです。……いまね、話しながら思い出したけど、この間うちの奥さんが映画『シャイニング』を見たことがないというのでDVDを借りて二人で見たんです。すると、ジャック・ニコルソンがホテルのロビーで同じ文章ばかり書く有名なあのシーンで急に泣き出した。泣くところじゃないでしょ!? と聞いたら、“あなたが人間風車を書いていた時を思い出した”と。おそらく、平川がサムに聞かせる童話の部分を書いていたんでしょう。自分の中にあるだけの悪魔的なものを引き出して僕は書いていたから、ふと奥さんに話しかけられた時にジャック・ニコルソンと同じような目で振り返ったらしい。それを思い出して怖くなったと」

 

河原 後藤さんが怖くて泣いたの? ……ヤバいね。

 

後藤 作家の奥さんは大変だよね(笑)。リーダーはどう思うかわからないけど、演出家って凶暴な人が多く、作家はわりと穏やかな人が多いと、僕のまわりに関しては思っていて。なぜなら、演出家は、何やってんだー!って外に出して言えるなら健全です。でも、作家は、どんな嫌なことも凶悪なことも頭の中で想像して解消するから、表面的には穏やかでも、まあ、不健全ですよ。で、この作品の主人公の平川は童話作家で、頭の中だけならいいんだけど、それを現実に具現化してしまう何かが起きたら大変なことになるなって。そこから発想して書いた作品でしたね。

 

河原 そうだったんですね。でもね、怒るのも疲れますよ。できれば怒りたくなんかない。穏やかなほうが役者にはウケがいいんだろうなあ。逆に、俺なんかが始終ニコニコしているのが怖くて、みんな必死になってくれるかも。

 

後藤 そっちもあるね。

 

河原 僕にそんな上等なテクニックはないです。おばあちゃん子なんで。

 

後藤 おばあちゃん子のたとえがわからないけど(笑)。

 

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――よくできた戯曲と大絶賛ですが、改めて河原さんが思う後藤さんの本の魅力とは?

 

河原 後藤さんは本当に童話がうまい。童話作家になったら? と何度も言われているんじゃないですか? 『人間風車』にはいくつも童話が出てくる。物語の流れ上、これなら大きな賞がとれるぞという童話を平川は書きますが、じゃあ、そういう設定で説得力のある童話を一本書けと言われて、実際書ける作家なんてそうそういます?“黄金戦士オロ”の童話は本当にいい。これ本気で売れる、ベストセラーになるやつじゃん!と。

 

後藤 いまからキングコング西野くんに絵を描いてもらって絵本にする? で、劇場で売る、と。……あれ、いけないこと言ったか。

 

河原 戯曲を800円で売るより、1800円で絵本を売りましょう(笑)。だって、子どもに聞かせたいやつですよ、本当に。

 

後藤 『人間風車』の言葉自体、われわれの世代なら(プロレス技の)ダブルアーム・スープレックスのビル・ロビンソンでしかなくて、ふざけたタイトルだったのが、いまはきれいな言葉のように思われてしまって。黄金戦士オロも、試合中に心臓発作で亡くなった経緯があったから、リマッチさせてオロが勝つ話を書きたかっただけなんです。フライヤーに書いてある“ダニー”は、リンゴ潰しのパフォーマンスの鳥人ダニー・ホッジ。鳥人だから翼が生えていて……と、この話はいいです、長くなっちゃう(笑)。

 

河原 うん、この時点で十分長い。

 

後藤 ビル・ロビンソンは存命中に一度この芝居を見に来てくれたんですよ。僕にとっては、リア王の舞台にリア王が見に来てくれるようなものだから、メチャクチャ緊張したのを憶えているなあ。

 

――演出にはプレッシャーもありますか?

 

河原 僕はどの作品を預かる時もプレッシャーはないんです。戯曲が持っている魅力を、僕がおもしろいと思う、僕なりのやり方で立ち上げるだけですから。パンキッシュにやろうとすると、実はよくできていない戯曲のほうがやりやすいんですよね。つまんねぇー本だからこうしちゃえ、あれやっちゃえって大胆にできますから。けど、『人間風車』は本当によくできているので難しい。ただ、その難しさと対峙する別の楽しみがあります。キャスティングもいいですよね。(フライヤーを見て)諒のところだけ完全にホラーでしょ(笑)。

 

後藤 ホラーとファンタジー、どっちもだね。

 

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――初めて『人間風車』を見に来る方にメッセージをいただくとしたら?

 

河原 昔からのファンもですが、初めて、という方にたくさんいらしてほしいですね。できれば勉強せずにきてほしい。いまはすぐ調べられちゃうから難しいけど。

 

――プロレスの知識も、ですか?

後藤 まったくいらないですよ!

 

河原 それはあってもいいかも(笑)。まあ、いつも通り、おもしろい演劇を作れるよう頑張ります。自分が役者で出た作品を演出するのは初めてですから。そのへんも楽しんで。

 

――後藤さんからもぜひ。

 

後藤 あのー、言っておきたいんですけど、僕が書いたのはコメディですからね(笑)! そこのところをぜひ強調してください!

 

河原 ホラー押しだとお客さん、チケット買わないから。じゃ、コメディってことで。

 

後藤 最後にもう一つ、思い出したんでいいでいすか? 当時、遊気舎はお決まりのキャラクターを作っていて、お客さんのほうが操縦かんを握っていました。もちろん、操縦かんを観客に渡したのは僕なんだけど、一発で取り戻してやろうと思って書いたのがこれ、『人間風車』だったんです。童話を使ったコメディから入って、怖い世界へ、悲しい世界へ、いつもと違う方向にわざと誘った。観客にしてみれば、いつものキャラのいつものコメディじゃない!と操縦かんが誤作動したようなもので、終わってみたら客席にいっぱい操縦かんが置き忘れられていました。結果、お客さんが総入れ替えしたんです。そうした目的もあった戯曲なんですよ。

 

河原 へー、そうだったんですね。

 

後藤 ですから、入口は完全コメディ。エンターテイメントで見てほしいです。そうやってむしろ油断させて……!

 

河原 結局えげつないホラーぶっこむんじゃん!!っていう(笑)

 

取材・文/丸古玲子

 

 

【プロフィール】

後藤ひろひと

■ゴトウ ヒロヒト 俳優・作家・演出家。通称“大王”。1987 年遊気舎に入団。劇作・演出・二代目座長を務めて’96 年退団後、’98年に川下大洋と「Piper」結成。2001 年より自身が主宰する「王立劇場」、2008 年からは「王立新喜劇」など、シリーズ作品を展開。代表作に『ダブリンの鐘つきカビ人間』ほか、『MIDSUMMER CAROL ガマ王子VSザリガニ魔人』は『パコと魔法の絵本』(08)として映画化。7年ぶりとなった新作『FILL-IN~娘のバンドに親が出る~』(17)も好評。

 

 

河原雅彦

■カワハラ マサヒコ 俳優・演出家・脚本家。1992年に演劇やライブ活動を行う「HIGHLEG JESUS」を結成、2002年解散まで全作品の作・演出を手掛ける。第14回読売演劇大賞・優秀演出家賞受賞、第22回読売演劇大賞・優秀作品賞受賞。映画、TVドラマの脚本、監督、俳優としても活動。近年の主な舞台作品は、残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』『50shades!〜クリスチャン・グレーの歪んだ性癖〜』、歌謡ファンク喜劇『いやおうなしに』、ミュージカル『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』、音楽劇『魔都夜曲』など。

 

作:後藤ひろひと

演出:河原雅彦

出演:

成河、ミムラ、加藤 諒、矢崎 広、松田 凌、

今野浩喜、菊池明明、川村紗也、山本圭祐、

小松利昌、佐藤真弓、堀部圭亮、良知真次

 

公演日程:

2017/9/28 (木) ~2017/10/9 (月・祝) 東京芸術劇場 プレイハウス(東京)

2017/10/13 (金)  高知県民文化ホール・オレンジホール(高知)

2017/10/18 (水)  福岡市民会館・大ホール(福岡)

2017/10/20 (金)~2017/10/22 (日) 森ノ宮ピロティホール(大阪)

2017/10/25 (水) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場 (新潟)

2017/10/28 (土) ホクト文化ホール・中ホール(長野)

2017/11/2 (木) 電力ホール(宮城)