・インタビューしちゃいました!! 2017-05-17 15:17

KAAT×PARCOプロデュース公演『オーランドー』
多部未華子×白井晃 インタビュー

 

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時も性別も超える人物を演じる多部未華子を、白井晃が初演出
ずっと一緒にやりたいと願っていた2人が本作で出会う

 

KAAT神奈川芸術劇場の芸術監督・白井晃が選ぶ近代戯曲シリーズ。2015年『ペール・ギュント』、2016年『夢の劇 −ドリーム・プレイ−』『マハゴニー市の興亡』、そして本年の『春のめざめ』と、いずれも日本での上演機会が少ない近代戯曲を選出し、枠にとらわれない表現方法で成功を収めてきた。そんな白井が次に選ぶのは、19世紀から20世紀にかけての変動の時代にロンドンで活躍した女流作家ヴァージニア・ウルフの小説を、サラ・ルールが戯曲化した『オーランドー』。物語の始まりはエリザベス1世統治下のイギリスだが、話が進むにつれて時代も国境も超え、主人公のオーランドーは男性から女性へと性別まで超えてしまう。100年近く昔に書かれたとは思えない斬新さに興味が募る本作。その主演に、「ぜひ一緒に仕事がしたい」と白井が長年願ってきた多部未華子が決まった。実は、多部も白井の演出が念願だったという。奇しくも今回のインタビューは、焦がれていた者同士の初の対談として実現した。

 

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――まず、白井さんが本作を選んだ理由から教えてください。

 

白井 KAATと取り組んでいるこのシリーズは、19世紀後半から20世紀初頭の小説や戯曲を、現代にもう一度掘り起こしていこうという狙いです。というのも、およそ100年前に書かれた世界の様相と、現代が、相似形をなしている感じがするんです。書かれた言葉、その時代の人の心の在り様から、現代のわれわれが学び取れることが結構あるのではないか。そうした主旨のシリーズですが、実は、今回『オーランドー』を選んだのは、ヴァージニア・ウルフの原作小説を戯曲化したサラ・ルールという作家が、僕はずっと気になっていたからなんですね。『Eurydice(エウリュディケー)』というギリシャ神話を現代に置き換えて書いた戯曲もあって、演劇的な書き方で仕掛けがおもしろい。そしたら、ヴァージニア・ウルフの『オーランドー』も戯曲化していると知り、これもサラ・ルールか!と思って読んだら、これまた演劇ならではの書き方で実におもしろく、ぜひとも上演したいと思いました。

 

――多部さんがオファーを受けた時の気持ちとは?

 

多部 お話がすごく難しいのでそこは置いといて……。置いといても(笑)、白井さんとご一緒してみたい気持ちが大きかったんです。山本耕史さんに5、6年も前からずっと、「絶対一緒にやったほうがいい」と言われていまして。

 

白井 そうなんだ。耕史くん、いいところ、ありますね。

 

多部 昨日も、「白井さんの稽古時間はすごく長いけど、学べることが多い」とメールが送られてきて。とにかく山本さんは、自分の稽古中も本番中も、「いま白井さんと一緒にやっているんだけど絶対いいと思う」とわたしに言い続けていたんです。具体的にどんなところなのかは聞けていないんですが(笑)。でも、なかなかご縁がなく、今回やっと、という感じです。

 

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白井 耕史くんとの最初の出会いは役者同士でした。僕が30代で、彼が17歳、宮本亜門さん演出の舞台(『滅びかけた人類、その愛の本質とは…』)で共演した時のことを、彼はいまだに「白井さんにやさしくしてもらった」と言ってくれているようで。僕にその記憶はないんだけど(笑)、一緒に体を鍛えたなぁと思い出します。その後、『ピッチフォーク・ディズニー』(2002年)で衝撃的に再会(白井演出に山本が出演)し、KAATのアーティスティック・スーパーバイザーに就任した第一作『Lost Memory Theatre』(2014年)、昨年の『マハゴニー市の興亡』と、難しい作品になると「耕史、やってくれない?」になってきましたね。いや、でも、そんな風に言ってくれていたとは初めて聞きました、うれしいな。

 

「多部さんを起用した理由は?」と絶対に質問されると思うので(笑)、先に答えておくと、正直、別に『オーランドー』でなくてもよかったんです。いつか一緒にやりたいとずっと思っていました。過去にも何度かお声掛けしましたがスケジュールが合わずご縁がなく、今回も無理かなと思っていたら快く引き受けてくださった。もう、「本当に!?」という気持ちです。

 

――お互いに念願が叶ったのですね。

 

多部 そうですね。稽古時間が長いのは、ほかの役者さんからも伺っているので、大丈夫です。

 

白井 どれだけ長いんだ(笑)、僕より長い人もいますよ。13~21時の8時間は普通ですよね?最近は13~19時にしています。本当はやりたいけど、みんなの考える時間やスタッフと打ち合わせをする時間を取ろうということで。ほっといたら、休憩も取らず稽古しちゃうタイプなもので。やっぱり稽古はいいですよ。やっただけいいものが出来ますから。

 

多部 わたしはディスカッションが苦手なんです。いつもですが、台本を読んでどう思ったとか、どう演じたいかとか、自分の意見が持てなくて。ディスカッションが飛び交う稽古場の仲間に入れるようになりたいと常々思いながら、できていないので、今回こそはと思います。小日向(文世)さんや池鉄(池田鉄洋)さんなど、ご一緒したことのある方も多いので、作品やキャラクター、動きについても話せたらいいなと……。

 

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白井 いまの多部さんの話を聞いて、実は、こうして多部さんとお話するのはいまが初めてなんですが、これまで観た多部さんのお芝居と、いまのお話で、そうか、なるほど、と腑に落ちました。演劇の作り方にはいろいろあります。ああでもないこうでもないとディスカッションするやり方もあれば、僕自身、俳優としてはめちゃくちゃ寡黙になる。だって、もらった役をどうやって自分の中に落とし込んだらいいか、自分で考え、あとは対人関係の中で作っていくものだから、いろいろ教えてもらう話し合いもいいけれど、まずは体でやってみるってことがあるんです。多部さんのいまのお話にはシンパシーを感じます。ただ、演出するには、僕が黙っていては静か~な現場になっちゃうから(笑)。今回は、小日向さんだし、池鉄さんだし、野間口さんだし、戸次さんだし、まぁ、賑やかなおじさんたちの現場になりますね。「あのさー、白井ちゃんさー」って小日向さんが真ん中でわーわー言っていると思います(笑)。

 

――『オーランドー』の中身についても教えてください

 

白井 本当に不思議な話ですよ。ヴァージニア・ウルフはたぶん、自分のパートナーをイメージして書いたと思います。彼女には同性愛的な部分もあったけど、20世紀初頭の当時には許されなかったでしょう。それでも結びつくわたしたちの感覚ってなんだろう、と彼女は考えた。人のつながりは、100年も何百年も、時を超える。初めて会ったのに、なにか感じることってありますよね。前の時間では夫婦ではなく親子や兄弟だったのかなとか、そういう、もしかしたらの結びつきを感じることがある。そうした思いから書かれたと同時に、この作品には、詩、というものが出てきます。生きて、言葉を紡ぎ、残し、それを引き継いで、誰かに伝える。“言霊”と呼んでもいいものを“オーランドー”という人物に預ける形で書いたのでは。パートナーが詩人だったこともあるでしょう。展開的にびっくりするような大団円を迎えるなんてことはないけれど、人とは、魂とは、言霊とは、こんな風に永遠に続くものかもしれないと、命を感じられる作品になればいいなと思います。

 

――白井さんが多部さんに見る女優の魅力とは?

 

白井 先ほど“腑に落ちた”と言った部分ですが、演劇的な言い方をすると、多部さんは“役を説明しない”んですよね。自分に内包するものと役を照らし合わせて演じているように見え、そこが魅力だと僕は思います。表層からデコレイトしていく演じ方ももちろんあると思いますが、多部さんは、映像でも舞台でも、役と自分の接点を見つけながら演じておられるようで、多部さんという“人”が見える、そこがいいなと。……ごめんね、僕の勝手で言ってます。多部さんの先輩の宮崎あおいさんの初舞台を僕もご一緒しましたが、後輩だと多部さんを紹介され、またいい女優さんが出てこられたと思った。そこからの思いもあったもんですから、やっとご一緒できるのがたまたま『オーランドー』だった、と言って過言じゃないですね。

 

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――たまたまかもしれませんが、『オーランドー』だからこそ、多部さんが活きそうだと思われる点は?

 

白井 前に多部さんが長塚(圭史)さんの舞台に出られた際、楽屋でご挨拶した時も、スーッと見えた雰囲気が静かな少女のようでした。それでいて、内側にはなにか秘めていそうで非常に興味深かった。そういう、多部さんのここのところ(胸を指して)にありそうなものが、オーランドーの、人が生きる衝動ってなんだろう、人が人を愛する衝動ってなんだろうと、恋をしたり言葉と出会っていくなかに抱く感情の揺れとの葛藤が、うまく反応してくれるんじゃないか、と期待しています。多部さんの中の思考と、本質的な愛を考えるオーランドーがシンクロしてくれたら、おのずと結果は見えてくる気がしているんですよ。

 

多部 話の内容も、設定も、キャラクターも難しいと思いますが、言っても人間ですから。自分の思いがちゃんとリンクできればいいんだろうな、とは思うんです。でも、昨日も台本を読んでいて全然わからなくて。映画も見ましたがわかんないなと。……お先真っ暗です(苦笑)。

 

白井 まぁ、こう言っている僕も、どこまで『オーランドー』を理解しているのか(笑)。

 

多部 これまでの舞台では、いつも千秋楽になって初めて、「ああ、こういう話だったのか!」と理解できました。今回は、稽古中に少しでも理解できれば合格点かな、と思っています。

 

白井 確かに、実際、役者さんと一緒に稽古しながら、「なんだ、そういうことか」「そういうことだよ!」と思うことがたくさんありますよ。このメンバーと一緒に探っていきたいですね。

 

あのね、正直に言わせて!これ、最後にどんな感覚になるのか、僕にもわからない、見えていない。だから、おもしろいんじゃないかと思うんです。多部さんの話される中身と僕のいまの気持ち、全然かい離していないですね。不思議な戯曲ですし、もともとの原作小説もまぁ不思議な内容で、どこにポイントを置いて、どんな花が開くか、これから見つけていきますが、だからおもしろいんです。人とのつながり、愛、言葉を紡ぐことと残すこと。じゃあ、なんで言葉を残していくのか。なぜ手紙で思いを伝えようとするのか、その行為はいったいどこに残るのか。現代はメールでしょうが、メールだってコンピュータ上に千年も二千年も残っているかもしれないわけで、そうした言葉たちに付随する思いが形になったら……、「あ、それが『オーランドー』か!」というような。人の思いが集約された言葉の根源ってどんなものだろう。もしかして、ヴァージニア・ウルフはいまも形を変えて生きているかもしれない。いろんな想像をさせてくれる作品なんです。

 

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――それぞれのセリフが語り口調である特徴などから“演劇的な見せ方の戯曲”とのことですが、その点についてはいかがですか?

 

白井 わたしはこの役を演じていますよ、わたしはこれと、おもしろい語り方をする、実に演劇的ですよね。しかしながら、この役はあなたがやってもいいんですよ、という開き方もあると思うんです。もしあなたがここに入ったら何らかの役割をやってもらいますよ、と。でも、それって、僕らの人生と同じですよね。

 

この取材の前に、戸次さんとちょっとやり取りしたんです。「メイクはどこで変えるんでしょう?」「うーん、舞台上でしょうね」「あー、なるほど、ずっと出ずっぱりですか」「たぶんそうなるでしょう」「袖にハケられない?」「たぶんハケられませんね」「あー、なるほど」「小道具も自分たちで動かすかもしれませんね、大道具も自分たちで引っ張りだしてくるかもしれません」「あー、うーん、はいはい」「楽屋まわりのものがぜんぶ見える状態かもしれませんね」「なるほどなるほど」「上から引っ張ると書き割りが出てきてロンドンになるかもしれないし、船の上かもしれないですね」「んー、んー、なるほどー」と(笑)。

 

そうした演出は新しいわけではないけれど、いま一度やってみるのもおもしろい。いまの演劇界はリアリズム傾向ですが、僕はどちらかというとアンチ・リアリズム人間。これはいかにも芝居ですよ、という、芝居を見せられている構図は明らかでありながら、中のひとり一人が生身のリアルな人間として見えてくる瞬間は、必ずある。デコラティブな格好をしている人が、最後には実はもっとも素に見えてくる。オーランドーは、男装しても、女装しても、わたしはわたし。男も女も、400年何百年の時間も通り越し、わたしはずっとここに生きている。たぶん、そういうところを多部さんに期待しているんだろうなと思います。

 

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――具体的な演出構想はありますか?

 

白井 舞台上に中世のお城がバーンとある!……は、まずないでしょう(笑)。なにもないかもしれないし、あるいは、天井からたくさんのバトンが下がっていて、そこにいろんなものがぶら下がっていて、今日はどのシーンからやりましょうか、という感じで引っ張り降ろして始まる、とか。役柄も時代も超えたいろんなものが舞台から客席まで伸びている、とか。……すみません、いまは適当に言っています(笑)。あとね、KAATのエレベータに多部さんと小日向さんがお客さんと一緒に乗って上がっていって、しゃべりながらそのまま舞台でオーランドーとエリザベス女王になるのもおもしろいかなと。芝居の構造をはみ出したライブ感を作りたいですね。

 

多部 わたしは、本当にまだなにもわかっていないんです。でも、視覚的効果は先輩方のほうがきっとある中で、オーランドーは、内面にあるもの、同性愛とか生まれ持ったものを前に前にと出すのではなく、一歩引いて立つ姿が一番際立つこともあるだろうと思っています。そこが、舞台のおもしろさなんですよね。みんなで作る強弱、波、同じ板の上にいても纏う色が違う。この作品はきっと、そうしたものが明確に出せると思います。小芝(風花)さんが演じるサーシャ、オーランドー、先輩方。三者がどう動くのがいいのか。オーランドーというキャラクターとしては、いかようにもできるだろうなと思っています。

 

 

取材・文/丸古玲子

 

衣裳協力(多部未華子)/
PERMANENT MODERN
Sretsis
JILLSTUART
GUSUCUMA

 

【プロフィール】
白井晃
■シライ アキラ 京都府出身、演出家、俳優。劇団「遊◎機械/全自動シアター」解散後、演出家としてストレートプレイからミュージカル、オペラまで幅広く手掛ける。2016年KAAT神奈川芸術劇場の芸術監督に就任。

 

多部未華子
■タベ ミカコ 1989年、東京都出身。テレビ、映画、舞台と活躍の場は広く実力派として評価が高い。映画『HINOKIO』『青空のゆくえ』で第48回ブルーリボン新人賞受賞。舞台『農業少女』で第18回読売演劇大賞・杉村春子賞(新人賞)、同優秀女優賞を受賞。

 

 

【公演情報】
KAAT×PARCOプロデュース
『オーランドー』

 

原作:ヴァージニア・ウルフ
翻案・脚本:サラ・ルール
演出:白井晃
翻訳:小田島恒志 小田島則子
出演:多部未華子 小芝風花 戸次重幸 池田鉄洋 野間口徹 小日向文世

 

日程・会場:
2017/9/23(土)~10/9日(月・祝) KAAT神奈川芸術劇場<ホール>(神奈川)
2017/10/18(水) まつもと市民芸術館(長野)
2017/10/21(土)~22(日) 兵庫県立芸術文化センター(兵庫)
2017/10/26(木)~29(日) 新国立劇場 中劇場(東京)