・取材してきました! 2017-01-27 12:25

舞台『ハムレット』製作発表レポート

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わずか14人で上演する『ハムレット』
「人が多すぎると真実が見えてこない」

舞台『ハムレット』の製作発表が1月某日、東京芸術劇場シンフォニースペースにて行われ、キャストやスタッフが本作への意気込みを語った。

舞台『ハムレット』は、英国ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの名誉アソシエート・ディレクターとして数々のシェイクスピア劇を手掛けてきたジョン・ケアードが演出を手掛け、東京芸術劇場では初演出となる。シェイクスピアの四大悲劇の中でも特に人気が高く、たくさんの人物が登場するため通常であれば30人近くのキャストになることもある作品だが、今回はたった14人のキャストで上演される。

シェイクスピアを知り尽くした男によるこの前衛的な舞台に臨むのは、内野聖陽、貫地谷しほり、北村有起哉、浅野ゆう子、國村隼ら魅力と個性にあふれた俳優陣だ。

この日登壇したのは、演出のジョン・ケアード、音楽の藤原道山、翻訳の松岡和子、そしてキャストの内野聖陽、貫地谷しほり、北村有起哉、加藤和樹、山口馬木也、今拓哉、壌晴彦、村井國夫、浅野ゆう子、國村隼の計13名。

最初にあいさつのためマイクを握ったのは演出のジョン・ケアード。本作にかける熱い思いがあふれ出し、おおよそ15分にもおよぶ熱弁をふるう。他の登壇者もジョンの熱意を受け取り、舞台への固い決意が感じられるコメントを残した。

 

演出:ジョン・ケアード

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シェイクスピアは400年ほど前に亡くなった人物ですが、今週になってある大学の研究で新しい発見がありました。シェイクスピアは貴族だったんじゃないかなど諸説ありますが、1601~1602年に役者として、紳士の称号を得るための申請をしていたことがわかりました。当時、役者が紳士になることは非常に珍しかったのですが、ここで言いたいことは、シェイクスピアは“役者”だったということです。

『ハムレット』という作品は、演じることについて書かれており、ちょうど執筆時期がこの紳士の称号を申請した時期に重なります。そして、同じころにシェイクスピアは父を亡くしています。『ハムレット』で描かれている“役者”“父を亡くした”というキーワードを考えると、自伝的なものとして書かれたのではないかと見出せます。

そういう作品ですから、素晴らしい役者が必要です。キャストの2~3人だけが素晴らしい、ではダメなんです。残念ながら、今回はこれだけの役者しか集まらなかったんですが(笑)。それは冗談として、本当に経験豊富で、素晴らしい人たちが集まりました。

今回、少人数で上演することに決めた理由のひとつとして、人が多すぎると真実が見えてこないと感じたからです。ほとんどのキャストが、2役以上を演じますが、そうすることでよみがえる生と死の関係を表現できると考えました。もう、今から稽古が楽しみです。

 

音楽:藤原道山

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ジョンさんとは、久々にこうやって舞台で共演することになり、本当に楽しみにしています。私は和楽器奏者ですが、和にこだわった音楽というよりは、もうちょっと異空間な表現ができる音楽を考えたいと思っています。生演奏もありますので、その辺も楽しみにしていただければと。

 

翻訳家:松岡和子

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ジョンさんとご一緒に仕事をするのはこれで4回目です。過去3回も、ものすごく勉強になりましたし、楽しかったし、それぞれの作品をより深く読む機会をいただきました。今回も一緒に上演台本を作るプロセスの中で深く深く、また最初から読み直して、ベストなものを作りたいと思っています。

 

内野聖陽

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ジョンの話を聞いている皆さんの顔が、大学の講義を聞く大学生みたいな顔になっていくように感じました(笑)。ジョンの話を聞くと、『ハムレット』って難しいんじゃないか、と思われた方もいるかも知れない。『ハムレット』は複雑なキャラクターだけど、日本人の皆さんにシェイクスピアの描いたこの豊かな世界をお見せしたい。イギリスの本場からやってきたジョンに演出してもらうことは本当に光栄なことで、非常に興奮しています。素晴らしいキャストになれるように頑張ります。

 

國村隼

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私は初めてのシェイクスピアになるんですけど、この『ハムレット』というシェイクスピアの中でも本当に有名な作品を、シェイクスピアの国の、シェイクスピアを知り尽くした演出家でいらっしゃるジョンさんと一緒にできる僕は本当にラッキーだと思っています。何より、先ほどのジョンさんのお話しを聞いていると、この話は客席で観たいなぁ、などと思ってしまいましたが、何とか客席に来てくださった皆さんのために面白いものを作っていきたいと思います。

 

貫地谷しほり

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私は実は、オーディションでこの役をやることになりました。本当にここに立てていることが嬉しいし、どうしようという思いも渦巻いています。内野さんたちが先ほどおっしゃったように、ジョンさんという本当に素晴らしい方が演出してくださる、それをこの素晴らしいキャストの中でできるということで、今から楽しみにしています。

 

北村有起哉

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僕もですね、養成所の時から「生きるべきか、死ぬべきか」のあの長台詞を覚えたり、ローレンス・オリヴィエの白黒映画を借りて観たり、いろんな友達の『ハムレット』を観に行って、首をかしげて舌打ちしたり(笑)してきたんですが。こんなにたくさん触れてきた作品は、他にありません。いよいよ僕も、そんな『ハムレット』に参加する時が来ました。ろっ骨を開いて、肩甲骨を自由に動かして、思い切りやりたいと思います。皆さんの期待以上の『ハムレット』になるように頑張ります。

 

加藤和樹

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僕もオーディションでこの役をいただいたんですが、その時にジョンさんが「体は動くのか?」と聞かれ、倒立やいろいろなアクション的なことやって、こういうことだったのかと思いました。決闘する相手が内野さんということで、本当に恐れ多くはあります。そして、こんな素晴らしい方々と共演できることを本当にうれしく思っています。自分の限界を超えるつもりでこの作品に臨んでいきたいと思います。

 

山口馬木也

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ジョンさんとは2回目で、前作はシェイクスピアの「十二夜」でご一緒させていただいたんですが、本当に稽古場が楽しくて、驚きの連続で、貴重な経験をさせてもらいました。今回もあの時間が待っているのかと思うと、本当に楽しみでしょうがないです。ジョンさんがさっき控室で「今すぐにでも稽古を始めたい」とおっしゃっていましたが、僕もその気持ち…ですが(笑)。今回は、役者としてだけではなく、アクションムーブメントというところも担当させてもらうことになりまして、若干の不安はあるんですけれども、一人でも多くのお客さんに感動してもらえる、楽しんで貰えるように精いっぱいやりたいと思います。

 

今拓哉

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『ハムレット』は20代の中盤くらいに参加したことがあります。『ハムレット』はいろんな年代のいろんなキャラクターがあって、関わる年代によって大きく変わってくるんですけど、40代後半になって、またこの作品に出会えたことが本当にうれしいです。何よりも、このメンバーとジョンさんの演出でできるということが、自分自身楽しみで仕方ありません。劇場に来てくださった方々と私たちが、劇場が楽しい場所だと再認識させてくれる作品になることを確信しています。

 

壌晴彦

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先ほどのジョンさんの話を聞いて、ほぼ演技プランがまとまりました。…嘘をついてしまいました(笑)。でも本当に、とってもプランニングがおもしろそうだと思っています。我々が辛そうに舞台にいてもしょうがないので、楽しく、ジョン・ケアードという船頭についていって、ツアーに出るような形で、ワクワクしながら稽古していきたいと思っています。

 

村井國夫

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私はジョンとの作品はこれで5本目です。ただ、数が多けりゃいいってもんではないですけども(笑)。名前のない墓堀りという役、これをオーディションで勝ち取りました。嘘です。ジョンとは30年来の知り合いですから、ふと老人を思い出してキャスティングしたんでしょう。今回、ジョンとは初めての方がたくさんいらっしゃいますが、不安でしょう。だけど、安心してください。ジョンはマジックをかけます。自分でも驚くほどの力を発揮することができますし、今まで見たことのないような『ハムレット』がきっと上演されると信じて疑いません。ぜひ期待してください。

 

浅野ゆう子

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演劇界を代表する、世界が誇る名演出家でいらっしゃるジョン・ケアードさんの演出を初めて受けさせていただきます。私は、オーディションではなく、この態度の大きさでこの役を得ました(笑)。酉年ですし、今はひよこのような気持ちでいっぱいです。(村井さんが)おっしゃったジョンさんのマジックにかけていただくということで、どんな新しい私を作ってくださるのかな、という期待で胸がふるえています。一日も早く稽古の日がくるのを楽しみにしています。

 

 

質疑応答では主演の内野に、ジョンの魅力について尋ねられた。内野は「ひとことでは言い表せない。『レ・ミゼラブル』が最初だったんですが、その時に“どんなキャラクターでも共感できるものでなければならない”というようなことをおっしゃっていて、その哲学が大好きで。万人によくわかる、豊かなものを目指しているところですね」と、ジョンの演出哲学について語った。

今回、『ハムレット』を日本で上演するにあたり、日本らしさを取り入れるかどうかについて、質問がおよぶとジョンは「実は『ハムレット』に本物の雰囲気はない。デンマークにはなっているが、あくまで想像上の心の置き場所として描かれ、2つの家族が描かれている不変的な話。だからどこの文化でも成立する。その文化の心地よい形で、となると日本ならば日本的になるだろうけど、そこは無理なく、心地よい場所にしていきたい」と語った。そして、『ハムレット』を翻訳することについても「むしろ、英語じゃない言語にすることはいいことかもしれない。英語版はあまりに多くの人に愛されすぎていて、一語一句変えることなんて許されない。翻訳ならば、現代にあった形にすることもできる。しかし、簡単にしすぎることも危険だし、説明しすぎることも危険だけどね」と話した。

また、ジョンは以前から「内野さんはハムレットを演じるべき」と言っていたが、なぜ内野だったのか?という質問に、ジョンは「ハムレットは若いと誤解されているが、セリフから少なくとも30歳以上だということが分かっている。しかも、太っているかもしれない。『ハムレット』は哲学を描いた作品だから、そういう物事を考えられる役者でなければ、主演として導いていける人物でなければならなかった」と、理由を述べた。

それを受け、内野は「え、じゃあ太っててもいいの? 今、絞ってるのに!」と、ドラマの役作りで16kg増やした体重を絞っていることを明かしながら、会場を沸かせた。そして、「ハムレットは若い奴っていうイメージを、そうじゃないんだぞ、と見せつけたいと思います」と決意をあらわにした。

また、会見後の囲み取材では、浅野ゆう子が「内野さんとは昔ドラマで夫婦だったんですけど、今回は母ですか?って聞いたら『時にはそういうこともあります』とざっくり言われてしまいました。覚悟が決まりました(笑)」と記者たちを笑わせ、「美しければ美しいほど、ハムレットは“おじと結婚しやがって!”と怒ることができる。美しい母で光栄です」と内野が応える一幕もあった。

舞台『ハムレット』は2017年4月9日(日)~28日(金)東京芸術劇場プレイハウスにて上演。5月より兵庫、高知、北九州、松本、上田、豊橋での上演も予定されている。

 

取材・文/宮崎新之

 

【公演情報】

『ハムレット』

作:ウィリアム・シェイクスピア

上演台本:ジョン・ケアード 今井麻緒子 (松岡和子訳に基づく)

演出:ジョン・ケアード

音楽・演奏:藤原道山

出演:内野聖陽 貫地谷しほり 北村有起哉 加藤和樹 山口馬木也 今 拓哉 大重わたる・村岡哲至・内堀律子・深見由真 壤 晴彦 村井國夫 浅野ゆう子 國村 隼

日程・会場:

2017/4/9(日)~28(金) 東京芸術劇場 プレイハウス(東京)

2017/5/3(水) ~7(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール(兵庫)

2017/5/10(水) 高知市文化プラザかるぽーと大ホール(高知)

2017/5/13(土)・14(日) 北九州芸術劇場 大ホール(福岡)

2017/5/17(水) まつもと市民芸術館 主ホール(長野)

2017/5/21(日) 上田市交流文化芸術センター 大ホール(長野)

2017/5/24(水) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール(愛知)