・取材してきました! 2017-09-07 14:19

ミュージカル・コメディ『パジャマゲーム』公開稽古&囲み取材レポート

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宝塚退団後初の女性役に挑む北翔海莉が初のスカート姿!
トム・サザーランド演出&ニック・ウィストン振付で
フォッシースタイルのダンスも華麗に披露

イギリス・チャリングクロスシアター芸術監督を務めるトム・サザーランドが、『タイタニック』『グランドホテル』に続き、ブロードウェイで1,000回以上も上演しトニー賞も獲得した伝説のミュージカル『パジャマゲーム』を来日演出。1950年代のアメリカ・アイオワ州のパジャマ工場で、7セント半の賃上げをめぐって労働組合と工場側が大衝突。組合の中心人物のベイブ(北翔海莉)とハンサムな新工場長シド(新納慎也)が立場を超えて恋に落ちる!?という、ハラハラワクワクドキドキも満載の超ご機嫌なコメディ・ミュージカルだ。

この日本公演には注目ポイントが目白押し。まずは、2016年に宝塚を退団した北翔海莉が初の女性役に挑戦。そして、大河ドラマ『真田丸』の豊臣秀次役で好評の新納慎也が久々のイケメン役に意欲を燃やす。さらに特筆すべきは、『フォッシー』(ロンドン公演)のオリジナルキャストとして活躍後に振付家に転身したニック・ウィストン。『パジャマゲーム』自体、ボブ・フォッシーが初めて振付を行った作品として有名だが、その本作に、フォッシースタイルを色濃く受け継ぐニックが振付師として参加し、日本のミュージカル界に普遍性と革命性を併せ持つ本物のフォッシースタイルを直伝する。

 

公開稽古に集まった大勢のマスコミを前に、まずはトム本人から演出構想が説明された。

 

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トム「三度日本に来られて本当にうれしく、今回は特にラッキーです。なぜなら本作は船も沈まないし誰も殺されないから(笑)。『パジャマゲーム』はブロードウェイでも大人気のミュージカル・コメディで、初演の50年代においては非常に革新的でした。当時の有名なブロードウェイプロデューサーのジョージ・アボットが、若い人材にチャンスを与えたい、新しいミュージカルを生み出したいとして、まだ無名だった人々を発掘。その中にボブ・フォッシーがおり、素晴らしいアイデアが誕生したのです。

『パジャマゲーム』がそれまでの作品とまったく違う革新的な点は、一つは、初めて一般人を登場人物にしたこと。そして、ニューヨークでもパリでもロンドンでもなく、宮殿の華やかさからもほど遠い、何もない町の工場が舞台であること。とても珍しいことです。しかも、労働者の権利をどう勝ち取るかという政治的なメッセージも込められた真面目なお芝居。とはいえ、ミュージカルの性質上でそこはうまく隠され、素晴らしいエンターテインメントになりました。英語の言い回しではこう言えます、“ナイフを刺しながらアバラをコチョコチョくすぐる”と(笑)。

今回の公演にあたっては、フォッシーへのオマージュの意もありますが、それだけではありませんよ。いまの時代、この日本にぴったりのものをお見せします。これだけ有名な作品を上演するには優秀なチームでなければ実現しませんが、必要なものはすべて揃いました。当時よりずっと大きな劇場でできるのもうれしい。革新とは、変化することです。いまもっともモダンな『パジャマゲーム』を皆さんにご覧に入れたいと思います」

 

身振り手振りで情熱的に語るトム自身がとても楽しそう。彼を見るだけでも、本作にかける意気込みと、すでに始まっている稽古の手ごたえがわかる。

 

いよいよ公開稽古がスタート。この日、披露されたのはオープニングシーンの3曲、『パジャマゲームオープニング』『時計と競争』『ブルータウン』。

両袖から全キャストが勢いよく飛び出し、踊り出す。「真面目な問題劇ですよ」とセリフを挟むが、華やかなダンスに目を奪われ顔がにやけてくる。これが、先ほどトムが言っていた“ナイフを刺しながらアバラをコチョコチョくすぐる”ということか。

続いて、ミシンを乗せた台車が大量に運びこまれ、大忙しのパジャマ工場がテンポよく表現された。「人物の人間関係や今後の展開が垣間見られる美しい歌とダンスの構成です」とトムも説明していたが、労働者の間を歩き回るベイブ役の北翔、新工場長シド役の新納が、徐々に徐々に存在感を出していく。

 

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『ブルータウン』は新納のソロだ。本作最初のバラード曲でもある。仕事への意欲を静かな闘志で燃え上がらせる歌唱に、演出席で見ていたトムもニックも大きな拍手。「まだ稽古2週目なんですよ、すごいでしょ!ここまで出来るなんて、日本の方々の情熱と献身をロンドンにも伝えたい」とトム。

 

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2幕冒頭の『Steam Heat』は、北翔を中心に、青山航士、神谷直樹の3人で歌い踊る、完全なフォッシースタイル。あまりの美しさと迫力に、メモを取る手も止まって見惚れた!北翔のパフォーマンスは素晴らしい。力強く、繊細で、正確な上にも、大胆。記者席ギリギリまで迫って踊る北翔にハートが吊り上げられてしまう。

この『Steam Heat』は本作の名物シーンだが、「実はオリジナルではカットされたのですが、ジェローム・ロビンスのおかげで復活し、いまや世界的に有名になりました。ほかにもオリジナルではカットされた曲を2曲復活させます。『Steam Heat』はオリジナルでは別キャストですが、今回はベイブを真ん中に据える初めての試みですよ。ベイブが初めて『Steam Heat』を踊るのです」。自慢と自信満々のトムがまぶしい。

 

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激しい踊りの汗と息を整えたところでカコミ取材が始まった。北翔はブルーストライプのフレアスカートを纏っている。実はこの日、北翔は初めてスカート姿をお披露目!

 

北翔「いま見ていただいたように、出演者のわたしたち自身がワクワクするようなオープニングから始まります。毎日、遊園地に行くような気分で稽古場に来ているんです」

新納「稽古初日がこの工場シーンでしたが、勝ったな、と思いました。うまくいっていたでしょう(笑)?バタバタ忙しい感じもよく出ているし、とにかく明るく楽しいので、お客様にも楽しんで見てもらえる、という勝算を得ています。それから、北翔海莉が日々女になっていくのを、僕はすごい距離感(近く)で見ているんですね」

 

――北翔さんは初めての女優、いかがですか?

北翔「宝塚を卒業して初の女優デビュー作なので、不安と緊張で挑まなければと思いましたが、ベイブは芯のしっかりした女性。男性と対等に、工場の仲間を守るために立ち上がる人物ですから、いまの自分のまま、着飾らないでできる役に出会えました。トムさんの演出の中、自然体で解放的に芝居ができています。女優の意識はまだですが、新納さんのふところに飛び込んでいます」

新納「皆さん、気づきました?北翔さんのスカート、初披露ですよ!」

北翔「はい(照)。21年間スカートを履いていなかったので、所作がわからず、宝塚時代の相手役の妃海風さんに電話して教わりました。新納さんとのピクニックのシーンで踊るのですが、女役さんってこんな大変な思いで踊っていたのか!といまさらながらの感謝を、あのときはありがとうって伝えました。いままでにない経験をし、学んで、新しい引き出しができています」

 

――新納さんは久々のイケメン役ということですが慣れましたか?

新納「イケメンに見えているかどうかは別として、芝居中に正直大変なのは、僕と北翔さんは二の線(主軸の二枚目)だから、周囲の濃いキャラたちがいろいろ実験して仕掛けてくるのに、乗りたいけど乗れない!ということ(笑)。がんばって二の線をやっています。それから、セリフだとわかっていますが、“今度の工場長カッコいいね”“可愛い”なんて言われると、だんだんいい気分になって……。わかっているんですよ、セリフだって(笑)」

 

――お二人が(役上で)恋に落ちるのは、稽古中のいつ頃になりますか?

新納「恋!?……って、ベイブに恋しているのはトムでしょう!」

トム「わたしはベイブもシドにも恋してるよ(笑)」

新納「いまはここまで、まだそこまではいかないよと、恋の段階を細かく演出してもらっているところです。なので、順調に恋は進んでいますよ(笑)」

 

――海外の演出家に受けての刺激などは?

北翔「大道具や小道具の使い方がどんどん新しく湧いてくるので、そうきたか!と。日本人の発想じゃないから、おもしろくて刺激です。また、ニックさんからフォッシースタイルをじきじきに教えていただけることも貴重な体験です」

新納「トムもニックもこう見えて若いんですよ。この若さで、この感性、発想、独創性、そして現代っぽさもあってすごい。古き良きを踏襲しつつ、新しいアプローチが刺激的です。“ブロードウェイで初演するミュージカル”というものの“次世代はこれ!”と思っています」

トム「僕も刺激を受けます。北翔さんも新納さんもやる気まんまん。実際できるし、有名な役にぜんぜんおじけづかない。遊びながら一緒に新しいトライができるのは、演出家として大きな喜びであり、皆さんからの素晴らしい贈り物です」

ニック「皆さんスポンジのように吸収するので、あれやって、これやってとリクエストするのですが、こうしてほしかった、と思っていたもの以上をやってくれるので、さらに投げてしまいます。稽古が終わっても練習していますしね。実に光栄です」

 

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――最後にメッセージをお願いします。

トム「40年代はバレエに物語を取り込むのが革新的で、50年代にフォッシーの新しい作り方が誕生しました。が、フォッシースタイルは、年代を反映した時代性のものではなく、完全に普遍的です。ニックも稽古中によく言うんですよ、フォッシースタイルはいまの人にも通じると。そして、物語も普遍的です。ステージングやキャラクターへのアプローチを、ぜひとも現代の感覚で見ていただければと思います。真面目なお話なのでレクチャー要素もありますが、何より楽しむことが一番。だって、ミュージカルなんですから!」

北翔「いまの日本に、ミュージカルのおもしろさを再確認させる作品になると思います。自分が客席にいると役者に憧れますが、これは、演出家、振付家、道具、セットのスタッフと、憧れる要素がいろいろあるんです。この舞台で、観客の皆さんそれぞれの人生のきっかけやパワーを受け取ってほしい。夢を与えられる世界になると思います」

新納「個人的には、こんなイケメン役は後にも先にもないので(笑)、ぜひ見に来ていただきたいです。それと、いまの日本では悲劇的作品が流行る傾向で、僕もそうした作品に出るのも見るのも好きではありますが、たとえばブロードウェイやウエストエンドに行くと、初日に見たいのはダンスいっぱいの明るいステージだったりするんですよね。僕がミュージカルを始めたきっかけにも明るい作品が多かった。『パジャマゲーム』は、そうした“ザッツ・ミュージカル”の純粋な楽しさが味わってもらえます」

ニック「ボブ・フォッシーが関わったミュージカルに、振付師として関わるのは初めてなので、呼んでくれたトムに、そして皆さんに感謝を申し上げます。稽古中によく出てくる言葉が“Fun(ファン=楽しい)”。観客の皆さんにも“Fun”を感じてほしいですね」

トム「僕がなぜミュージカルを愛しているかが伝わるといいなと思うんです。ミュージカルは、通常の(舞台)戯曲よりずっと強く、映画より想像力があり、多くのパワーとインスピレーションを与えてくれるもの。『パジャマゲーム』は完璧なブロードウェイミュージカルです。後の世にもずっと続くよう祈っています」

 

本物は違う!これは見たい、絶対におもしろい!……公開稽古で強く感じた。取材なのにペンを落として魅入っていた実体験からも自信を持っておススメできる。北翔の素晴らしいパフォーマンスはもちろん、新納はじめ鍛えられた全キャストの団結感が物語をいっそうおもしろくするのは間違いないし、トム・サザーランド&ニック・ウィストンという著名クリエーターのタッグが日本で見られる機会はそうそうない。ぜひ劇場で盛り上がってほしい!

 

取材・文/丸古玲子

 

【プロフィール】
北翔海莉
■ホクショウ カイリ 1998年宝塚歌劇団入団。星組トップスターに就任し『ガイズ&ドールズ』でお披露目。2016年『桜華に舞え』『ロマンス!!』をもって退団。本公演が退団後初の舞台となる。

新納慎也
■ニイロ シンヤ 1975年、兵庫県生まれ、俳優。2016年NHK大河ドラマ『真田丸』の豊臣秀次役で“秀次ロス”と言われるほど話題に。『エリザベート』ほかミュージカルからストレートプレイまで幅広く活躍。

 

【公演情報】
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ミュージカル・コメディ『パジャマゲーム』

日程・会場:
9/25(月)〜10/15(日) 日本青年館ホール(東京)
10/19(木)〜29(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ(大阪)

原作:リチャード・ビッセル
脚本:ジョージ・アボット、リチャード・ビッセル
作詞・作曲:リチャード・アドラー、ジュリー・ロス
演出トム・サザーランド

出演:
北翔海莉、新納慎也、大塚千弘、広瀬友祐、上口耕平、阿知波悟美、佐山陽規、栗原英雄
青山育代、青山航士、天野朋子、音花ゆり、加藤良輔、神谷直樹、木内健人、弓野梨佳、工藤広夢、鈴木結加里、田中里佳、永石千尋、村井成仁、米島史子