・インタビューしちゃいました!! 2016-09-15 00:00

ロロ いつ高シリーズVol.3『すれちがう、渡り廊下の距離って』 三浦直之 インタビュー

Producer Naouki Miura poses for photo during special interview for "Law Ticke HMV Magazine" in Ikebukuro, Tokyo, Aug. 22, 2016. (Photo/Takanori Abe for Lawson HMV Entertainment)
“いつ高”シリーズで胸キュンな感覚を!

 

三浦 とにかく青春モノが大好きなんです。映画にしろ小説にしろ、“青春”という冠がついてるものは問答無用で観る、みたいな人間なので。いつかそういう青春モノのストレートな演劇を作りたいなって思っていて、これでようやく始められたなって。

 

と語るのは、ロロの主宰・三浦直之。独創的な演出がインパクトを放つ劇団公演のほかに小澤亮太ら人気俳優を起用した「光の光の光の愛の光の」といった外部作品を手がけ、全国高等学校演劇コンクールの審査員としても活躍するなど、注目の若手演劇人といえる存在だ。彼が力を入れて取り組んでいるのが、架空の高校を舞台にした「いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三高等学校」、通称“いつ高”シリーズ。

三浦 高校演劇の審査員をやらせてもらうようになって、面白いなって思うことがすごく多かったんです。高校演劇には細かいルールがあって、上演時間が60分以内じゃなきゃいけなかったり、食べ物だとか舞台上を汚す可能性がある小道具は使えなかったり、舞台美術の仕込みも10分以内に行わなくちゃいけない。いろんな制約があるなかで、このルールに合う脚本を提供する形で僕も貢献できないかと思って、僕たち自身が高校演劇と同じルールで作品をやるっていうシリーズを始めたんです。

 

Vol.1(2015年11月上演)では昼休みに自分の席に座る知らない女子に戸惑う男子の姿、Vol.2(2016年1月上演)では夜の教室に肝試しにやってきた生徒たちと幽霊との出会い…といった具合に、同じ学校のなかの様々なスポット&シチュエーションで繰り広げられるショートストーリー。それぞれに重なった登場人物がおり、回を重ねるごとにその情報がパズルのピースのようにつながっていく、ファンタジックな会話劇になっている。その架空の人物や設定をベースにした世界観のなかに、“高校生あるある”的な現象や実在のラジオ番組の名前やアーティストの名前が散りばめられ、なぜか胸がキュンとするような不思議な感覚を覚えるのだ。三浦自身も大好きだと語るマンガ家・西村ツチカを起用したチラシや台本の挿絵も、作品にさらなる彩りを添えている。

そしてVol.3となる今作で舞台になるのは、“渡り廊下”。上記の制約のなかで作る舞台セットなど、まだ構想中の部分も多いというが…。

三浦 Vol.1に、昼休み時間中にずっと校庭を走ってる太郎って子が出てくるんですよ。Vol.1では名前しか出てこないんですけど、Vol.3でついに登場します。その子が出てくるとしたらどこを走ってるといいかなって考えたときに、渡り廊下をずっとシャトルランみたいに往復してるっていうイメージが湧いてきて。渡り廊下も学校らしいロケーションですしね。渡り廊下のこちら側にいる人、あちら側にいる人がいて、その間をつなぐのが往復する太郎っていう男の子で。別々の場所にいる人たちが渡り廊下というものでつながって、気持ちが橋渡しされていく…っていうような作品を考えているところです。

 

Vol.1、Vol.2と好評だった同シリーズは、HPで台本を無料公開しているほか、高校生の観覧料も無料という太っ腹な企画。そのため高校生の観客も多く、ロロの本公演とは違う広がり方をしていることを実感するという。さらにこのシリーズを手がけていくなかで、三浦の演劇との向き合い方にも変化が。

三浦 ロロのフルスケールの作品は、空間や時間を移動するような幅のある作品が多いんですが…。いつ高シリーズは教室って場所を決めたら教室のなかだけで、通常の演劇よりもコンパクトな1時間のなかで作るので、いつもとは作り方が違う実験的な場所でもあります。自分が脚本を書くときに、モノローグ(独白)を書く筆力は年々上がってきている気がするんですけど、ダイアローグ(会話)が弱いという弱点があって、ダイアローグを自分のなかで強制的に鍛える機会を作らなくちゃとも思っていたんですよ。なのでこのシリーズではモノローグを使わず、高校生たちのダイアローグだけで進むという制約を、自分が成長するために課してますね。

あとロロでは脚本執筆と演出の作業を並行してやっていて、上演ギリギリで作品が完成するケースが多いんですが、このシリーズでは稽古前になるべく台本を仕上げて、より演技というものを考える場所にしたいと思っていて。Vol.1の時は細かく演出をつけたりもしたんですけど、Vol.2で少し俳優たちの自主性に任せてみるようにしたら上手くいったんですよ。演技の演出は難しいなと改めて思ったりもしています。

 

劇団のフルスケールでの公演にもここで学んだことをフィードバックしたい、という意味も込めて始めたという“いつ高”シリーズ。同シリーズをきっかけにロロと出会った人も多く、結果的に劇団自体への注目度も高まりつつあるようだ。

三浦 作品への反応で嬉しくもあり、悲しくもあったのは、『ロロの作品のなかで一番好き』っていう声ですね(笑)。このシリーズは今のところ楽しく作れているんですけど、フルスケールの作品は毎回、精神的にもすごくすり減りながら取り組んでいるので…。

 

と、いうもっかの悩み(?)も。連作であるこのシリーズだが、今回のVol.3から観る人でも世界観を十分に楽しめるように、現在執筆を進めているという。最後に、今後もコンスタントに続けられていくであろうこのシリーズの展望について、こんな風に語った。

三浦 理想としては年2本くらい新作を作っていずれレパートリーにして、定期的に上演できる場所も作って…。東京近郊の高校生だけに見せるんじゃなく、各地をツアーで回っていきたいんですよ。最終的には演出を僕じゃなくてもできるように、これはままごとの柴幸男さんが言ってた言葉ですけど“演出のクックパッド化”するというか、ある程度のクオリティを保ったフリーソフトみたいなものに育って欲しいというのが僕の願いなんです。このシリーズが僕の手から離れて広がっていったら、僕のなかでは成功かなって思いながらやっていますね。

 

インタビュー・文/古知屋ジュン
Photo/阿部卓巧
構成/月刊ローソンチケット編集部 9月15日号より転載
写真は本誌とは別バージョンです。

 

【プロフィール】

三浦直之
■’87年、宮城県出身。’09年にロロを立ち上げ、以降全作品の脚本・演出を担当。「ハンサムな大悟」で第60回岸田國士戯曲賞最終候補にノミネート。作・演出を担当する外部作品「光の光の光の愛の光の」が、9月28日~CBGKシブゲキ!!にて上演。

 

【公演情報】

ロロ いつ高シリーズVol.3『すれちがう、渡り廊下の距離って』

脚本・演出:三浦直之

出演:篠崎大悟(ロロ)、大石将弘(ままごと/ナイロン100℃)、大場みなみ、大村わたる(柿喰う客)

日程:11/10(木)~20(日)
会場:横浜STスポット