・取材してきました! 2017-11-29 14:55

モチロンプロデュース『クラウドナイン』稽古場レポート

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初日までカウントダウンの稽古場は熱気と笑い
個性派すぎる4俳優と大人計画クセモノ4俳優が合体
破天荒作品で木野花カリスマ調教師が8人を追い込む

木野花が29年ぶり3度目の演出を手掛ける、英国の劇作家キャリル・チャーチルの代表作『クラウドナイン』。初日目前の稽古場がマスコミに公開された。本作は二幕構成で、一幕は1880年頃のイギリス植民地時代のアフリカ、二幕は100年後のロンドンが舞台。一幕で髙嶋政宏演じるクライヴと三浦貴大演じるベティ夫婦とその家族・友人知人ら、それが基本のホームドラマな設定だが、二幕の人物たちは(時間は100年後なのに)25才歳を取っている。それだけでも混乱しそうだが、輪をかけて奇天烈なのは一幕と二幕で配役がガラリと変わることだ。

マスコミに公開されたのは、一幕二場の途中まで約22分。伊勢志摩が乗馬のムチをふりながらT字型の変形舞台の下手から現れる。すかさずブーツを履いた髙嶋政宏が追いかけてきて、伊勢となにやら情事。二人は夫婦ではなく不倫関係らしい。髙嶋は盛りのついた獣のごとく伊勢の体をまさぐり腰を動かし、スカートの中に頭を突っ込む!?そんな二人の情事がひとしきり終わると(実際は終わっていないのだが……)、こんどは奥からスカート姿の三浦貴大が登場した。髙嶋演じるクライヴの妻ベティ。その顔に浮かぶ微笑みは驚くほどまったくの女性だ。日傘が良く似合う。正名僕蔵、宍戸美和公、平岩紙、入江雅人、石橋けいもやって来て、ピクニックが始まった。平岩の少年らしさは板についたかわいらしさだし、入江の長ゼリフは彼の真骨頂だし、妙に動かない正名も気になる。そこへ、再登場した髙嶋は、先ほどの情事などしらんぷりで家族の団らんを指揮し、みんなでかくれんぼすることに。が、かくれんぼだからだれにも見られないと思ってか、宍戸と三浦の母娘の確執、入江と三浦の不倫、入江と平岩の少年愛、三浦と石橋の同性愛などなど……、寸暇を置かず猛烈な展開を見せた。そして、三浦と石橋がキス(三浦は男だが、女性役なのでレズビアンな組み合わせだ)!?……というところで、あっという間に公開終了。作品全体からすれば一部だが、ここだけでも赤裸々で大胆な性表現がふんだん。しかも、笑える! 演出家席では木野が満面の笑みを浮かべ、ときに声を出して笑いながら演者たちを見つめていた。

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コメディを作りあげる上で役者を緊張させない配慮、その気遣いが演出のはしばしに垣間見える。何回も同じ場面を繰り返し少しずつ場面の精度をあげていく、そしてそれを見守る他の出演者。少しニュアンスや、細かな演出を加えていくことで場面がどんどん面白みと深みを増してゆく、そんな稽古が他のシーンでも繰り返されていた。


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「1979年のイギリス初演時、これは時代の最先端の戯曲でした。でも、日本においては、現代から考えられないくらいセクシャリティな事柄がまだまだ遅れていて。ようやく、いまだったら、お客さんにもまた違う世界が見せられるかなと、受け取ってもらえるかなと」思い、再演を決めたという木野。「これ、本当に笑える芝居でもあるんですね。そこのところはこのメンバーでイケると思っています。一人一人がかなりおもしろいキャラクターを持っていますから。本番でお客さんが入ったときにどんな風になるかが楽しみ。初日に向けて追い込んでいるところです」。いまだから再演する本作に、大きな可能性と期待を見出している。

 

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演劇のいわゆるルールを無視(あるいは超越)する本作の初日を、目前に控えたいまの心境、二幕で役を演じ分けることについて、各俳優に語ってもらった。さらに、それぞれの役者に寄せる木野目線の魅力と期待も聞いた!

 

木野「初日までわずかですが、これはイケる、と思ってるんですけど(笑)。いままさに、ここから追い込みの時期で、どれだけ体力的・気力的にみんなが限界に挑戦してくれるかなというところです」

髙嶋「早く本番になってほしいのが本心ですね。一幕はクライヴ、二幕はその息子のエドワード(一幕では平岩が演じる)をやりますが、今日は一幕、明日は二幕と、訳がわからなくなる繰り返しでしたが、そのたびに、木野花サーカス団長がムチをふるって。木野さんのムチの音を聞くと、そのときの役の気持ちになる感じですね」

木野「髙嶋さんは放っておいても勝手にやってしまうパワーもありますし、見かけも大男だし、一幕は大丈夫と思っていましたが、放し飼いはヤバいなと(笑)。脇道にどんどん行っちゃうので結構ダメ出しが多いかもしれないですね。二幕は、ホモセクシュアルな悩みを抱える役で、そこが、今回の髙嶋さんの勝負どころではないかと。意外とすんなり入っていけている気がします。根はごくやさしいいい人なんだなと、髙嶋さんの新しい面が見えておもしろいです」

伊勢「稽古初日にはトンネルの向こうに木野さんがいて、あそこに辿り着かなきゃと思っていましたが、いま木野さんの姿も見えてきたので、最後のダッシュです。(トンネルを)出ると絶対に思いがけず派手な、ヴィヴィッドな芝居になるとわかっているので、早く初日でヴィヴィッドな世界に飛び出したいなと。一幕のソンダース夫人は慣れている感じの、自分に近いところでやれるんですが、二幕のベティは完全に違う種類の人間。コルセットでぎっちり強制されている気分です。ふぅっとすこしでも気が抜けてお腹とかはみ出すと、木野さんにギュゥッ!と締められる。精神的には厳しいですね。でも、へえ、自分ってこうなるんだなあ、というおもしろさがあります。これから本番に向けてぐんぐん矯正されるんだろうと……」

髙嶋「きつく締められ、ムチでうたれ……。(木野さんが)いないから言うけど、木野花女王様といいますか、カリスマ調教師、ですね」

木野「わたし、ここにいますけど(笑)! 伊勢さんはご自分でも言われたように一幕が持ち味。二幕でどれだけ上品な上流階級のおばあさんになれるかが挑戦です。こういう役は、たぶん伊勢さんにとっての初めてのトライじゃないですか?(伊勢、うなづく)。油断するとすぐ戻りそうになるので、調教師として、手綱の締めどころだと思っています」

三浦「舞台は2回目で、まだ自分を客観視できないのですが、役の心情はかなり掴めてきました。一幕が女性、二幕は男性の役ですが、最近、私生活が内股になってきたので、二幕までに直すのが結構大変です。座っているときに無意識にこうなって(内股)いるんです」

木野「初の女性役とのことですが、三浦さんは案外と上品さが身に着いてまして、早い時期にその気になれていました。逆に、二幕のジェリーという労働者階級のゲイ役で手こずっている感じ。荒っぽく、世の中に怒りをもって振り返れ的な、そういう芝居を三浦くんから引き出せたら、もっと役の幅が広がっておもしろいんじゃないかと思います」

正名「木野さんから、初日に向け追い込む話がございましたが、その言葉で尻込みしそうな私がいます。ぐっと堪え、さらにどんどん密度を濃く芝居していけたらと思います。一幕では、白人軍人の家族に雇われているアフリカ人の召使いですから、非常に抑圧された役でございますが、二幕では、一転、5歳の白人の女の子を演じます。ひたすら駆けずり回り、はしゃぎまくり、怒られまくるという、単純に運動量の差がものすごくて、ですね。まだちょっと馴染めていない状況ですが、初日までになんとかします」

木野「正名さんは、役者として技師(わざし)的なところがあって、どの役もやろうと思えばやれちゃう感じですから、むしろ、やらない、という挑戦ですね。技を見せずまっすぐ立つ、というのかな、そこを追い込んでいます。二幕はのびのびとやってらっしゃいますよ。この大男が5歳の娘役。ときどき本当にかわいく見えるので、ぜひ楽しみにしてほしいです」

平岩「稽古場でみなさんを見てもすごくおもしろいので、絶対におもしろい舞台になる実感はありますが、わたし自身はまだまだ穴を掘っていきたい、見る景色はまだ先と思っています。一幕は少年エドワード、二幕では、正名さん演じる少女キャシーの母親でシングルマザーの役。性別が変わるので演じ分けはしやすいです。二人に共通しているのは純粋さを持っていること。やる心は一つでできているので、そのうえでの違いを見てもらえればと思います」

木野「紙ちゃんのエドワードはむちゃくちゃかわいい。紙ちゃんか?エドワードか?ってくらいスムーズに役に入っていけていると思います。二幕のリンというシングルマザーの役も、自分なりに解釈しながら徐々に見えて来ているところ。なんだろう、安心して見ていますね」

宍戸「木野さんにお尻を叩かれて今日まできました。手ごたえの実感はないのですが、衣装を着けたとき、あ、乗れそうだ、と予感がしました。以上です。二役については、一幕でおばあさん、二幕ではそのひ孫。ひ孫は、前回、前々回は登場していない役なので自由にやっています。これからも自由にやります、以上です」

木野「宍戸さんも、わりと放し飼いです。……みんな動物(笑)? 宍戸さんなりの解釈で作って来てくれますから、逆に、わたしが楽しみに演出する部分があります。おもしろ味も、宍戸さん独特のカラーで笑いをとっていけるんじゃないかと」

石橋「初めての本読みからまったく別の芝居に、日々本当におもしろく木野さんの演出で変わってきています。一幕は男を知らない優良な家庭教師で同性愛者でもあって、二幕は、夫婦仲がこじれて大変な中を子育てしているお母さんの役です。女性として、ぜんぜん背景が違うので、休憩の間にどこまで気持ちが切り替えられるか。がんばります」

木野「石橋さんは、一幕も二幕も、微妙で結構難しい役どころを抱えています。一幕はレズビアン、二幕はバイセクシャル、どちらも女性で、その微妙の役の使い分けが勝負どころかなと思います。繊細に作っていかなきゃならない部分を、いろいろと試していますね」

入江「衣装を着たとき、この芝居のバカバカしさ、三浦くんが女性役である意味がパアっと浮かび上がってきました。早く、衣装を着たところにお客さんが入って来てくれたらと思います。一幕は探検家の役ですが、出てくる男性ほとんどに手を出しているんじゃないかという(笑)。自分にはないもの(同性愛)なので、おもしろおかしくやれればと。二幕は、笑いをとろうとせず真摯に演技しようと思っています」

木野「入江さんも、おおかた放し飼いで(笑)、ちょっとだけ交通整理しています。自由にやってもらったほうが入江さんのおもしろ味が出るのかなと。膨大な長ゼリフをどう料理するかが勝負どころですが、入江さん的に切り込んできている感じはあります。お客さんにとっても見どころですので、楽しんでいただきたいです」
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――お気にいりシーンを一つ、挙げてください。

髙嶋「僕はやっぱり、伊勢さんの股間(スカート)に入る、先ほどお見せしたシーンが一番好きですね。たまーに、伊勢さんの乳房に触れちゃったりなんかしてね」

伊勢「ありがとうございます、ドキドキしております(笑)」

髙嶋「ほかの人のシーンでは、平岩さんが入江さんに言う、「ね、あれ大きくなってるの?」のセリフ。たまらないですね。もし僕が言われたら、周りを見て、「いいよ、ちょっとだけだよ」と出しそうな気がするほど、すごく好きなんです」

木野「こらっ、下ネタ……!」

伊勢「わたしが好きなのは、二幕で、入江さんが長ゼリフをずぅーっと一人で言うところ。わたしは舞台に出ているので見られませんが、演出家席を見るとみんながニヤニヤしているので、どういうおもしろさなんだろうと思って。わたしはわからないから。本番ではお客さんがどんな反応をするのかすごく楽しみです」

三浦「一幕で僕が演じるベティを、二幕では伊勢さんが演じますが、自分のやっていた役が二幕でこんな風になるのかと。自分も楽しいし、見てくださる方も楽しめると思います」

正名「個人的には、二幕の、髙嶋さんのエドワードと三浦さんのジェリー。二人はカップルですが、公園で待ち合わせをして会った瞬間に別れ話になっちゃう。非常に切ないなと。特に、ふられる髙嶋さんのエドワードの負け惜しみ、強がりのセリフがむちゃくちゃ。心の中でいつもクスクス笑っております」

平岩「わたしも正名さんと同じで、髙嶋さんの負け惜しみの「君は怪物だよ」のセリフがとても好きです。すごくいいセリフだなあと。全編にわたって何気ないシーンの会話がすごくおもしろくて、いいセリフがたくさんあるんです」

髙嶋「(平岩に)君は怪物だよ」

平岩「ありがとうございます(笑)」

宍戸「二幕の正名さん演じるキャシーの歌です、以上です」

髙嶋「ああ、あれはすごいですよ、耳について離れない。夜、目を閉じると、あれがずぅーっと頭の中を……」

正名「そうでしたか……、これはすみません!」

石橋「わたしは、二幕でわたしの息子役の宍戸さん。楽しんで演じています」

入江「先ほど公開した、ピクニックのシートを敷くシーンですね。宍戸さんと三浦くんが立派なドレスを着るんですが、三浦くんがとにかくデカくて。そして二人の後ろには正名さんがいる。この規模の劇場でやる芝居とは思えない迫力です。三浦くん、ほんとデカくて、僕、抱きしめる手が回らないんだよね。衣装を着ると、より際立っていい味が出ると思います」

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――三浦さん、役の心境が掴めたということですが、どんな風に掴んだのですか?

三浦「まずは歩き方から木野さんに教えていただいて……」

平岩・宍戸「(三浦に耳打ちで)すね毛、剃ったこと!」

三浦「ああ、そうだ!足の毛を剃りました。毛が濃くて、剃刀2つダメにしてしまって。剃るって大変ですね、それに、剃った後もきれいに保たないとならない。女の人は大変な努力をしているんですね」

髙嶋「いきなり剃刀じゃなくて、まずバリカンで短く刈ってからやるんですよ」

木野「やったことあるの?」

髙嶋「ありますよ。チ〇毛も剃りましたから」

木野「うるさいっ!……この感じなんですよ。聞いてもいないことを、この人はっ!」

髙嶋「僕は、女としての三浦くんの相手役になります。三浦くん、最初の本読みから女っぽかった。初共演ですが、(いまも)絶対にゲイの人だと思ってますね。二幕も、男役だけどゲイですし。僕が普段一緒に飲みに行くニューハーフの子みたいで、違和感ありませんね」

三浦「や、やめてください、あらぬ疑惑が出ますから!」

髙嶋「芝居中、たまに、僕の太ももに三浦くんの股間がぶつかると、そうか、下はあるかと……。ちょっとドキッとするんです」

木野「むしろそっちでドキッ?ですか(笑)」

入江「僕も三浦くんとラブシーンがあって、最初は抱きしめる程度だったのが、演出でキスになって……、本当にはしませんけどね!三浦くんのひげが濃くて頬にじょりじょり当たると、ああ、俺は男の人ダメだあ!と(苦笑)。髙嶋さんの股間に手をやるシーンもありますが、本当に当たっちゃって、もう、なんだこれ、やっぱり男は絶対無理!と」

髙嶋「なんなら握って上げてもらってもいいんですけど」

入江「ちょ、ちょ、無理、結構です!」

ここまでツワモノ・キワモノぞろいの舞台が過去にあったか? 赤裸々で、笑いにあふれながらも、心に突き刺さる人間の生き様の数々。開幕寸前。見逃さないでほしい。

 

インタビュー・文/丸古玲子

【公演概要】
モチロンプロデュース「クラウドナイン」

日程・会場:
12/1(金)~12/24(日) 東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
12/22(金) ~12/24(日)  OBP円形ホール(大阪府)

作:キャリル・チャーチル
訳:松岡和子
演出:木野花

出演:
髙嶋政宏 伊勢志摩 三浦貴大 正名僕蔵 平岩 紙 宍戸美和公 石橋けい 入江雅人