・インタビューしちゃいました!! 2016-05-20 18:19

「ボクの穴、彼の穴。」 ノゾエ征爾 インタビュー

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フレッシュなキャストで挑む
見えない敵との「戦争」

 

 建て替えのため8月に閉館が決まっているパルコ劇場(2019年リニューアルオープン予定)に、劇団「はえぎわ」で作・演出を務めるノゾエ征爾の脚本・演出作が初登場。イタリア人童話作家による同名絵本が原作の二人芝居で、塚田遼一(A.B.C-Z)と渡部 秀という、フレッシュ&エネルギッシュなキャストだ。

ノゾエ「もともと知り合いだったとかではないので客観的な印象ですけど、ふたりとも陽のイメージ。でも陽って絶対にその一面だけではないし、彼らの“奥”にすごく魅かれています」

 

 舞台はとある戦場。穴(塹壕(ざんごう))にたったひとり取り残された兵士が、戦争の終結を待ちながら、すぐ近くの穴に潜む敵兵への妄想と殺意を膨らませていく。耐え切れず、ついに行動に踏み切った彼が見たものは……。原作絵本は、ほのぼのしたイラストや子供でもわかる平易な言葉を用いながら、私たちの本質を鋭く突きつけてくるような手ごわい作品。舞台として立体化するには難しそうな素材だが、翻案・脚本・演出を手掛けるノゾエの勝算は?

ノゾエ「そうなんですよね、なかなか困難だと思います(笑)。でも僕はその困難が好きっていうか、題材はいつも演劇から遠いものを探すところがあって。たとえば戯曲ですらない、サラリーマンが読む普通の本から演劇を立ち上げてみようと思ったり。ギャップから生まれるエネルギーというと安易ですけど、そこに演劇の醍醐味や可能性を感じているような気がします」

 

 実際、本作の舞台化を提案したのは、「この絵本は前から持っていてずっと好きだった」というノゾエ自身。

ノゾエ「読んでいるときは舞台というものと直結していたわけでは全然なかったんですけど、不思議と不意に浮かんできました」

 

 ちなみに原作絵本の翻訳者は、ノゾエの師匠的存在(ノゾエは演劇スクール「ENBUゼミ」松尾スズキクラス出身)である松尾スズキだ。ノゾエは昨年、松尾が描いた絵本「気づかいルーシー」を舞台化した経験もある。

ノゾエ「そのときも松尾さんが書かれた言葉を戯曲化したんですが、松尾さんも舞台の方なので、絵本のような別の媒体になったとしても、人の身体を通して生きる言葉の要素がやっぱりどこかにあるんだなと思いました。だから全部解体したりする必要はなくて。でも今回は作品の性質上、わりと(原作の言葉の)痕跡は少ないかもしれません。やることが決まってから、松尾さんにはメールしました。『気づかいルーシー』もあったので、『俺の作品を演劇化してくれる人になってくれたらいいのに』というお返事をいただきました(笑)」

 

 穴の中でのジリジリとした心理戦が続く話だが、アクロバットの名手・塚田と「仮面ライダー」シリーズ出身の渡部は、特に体の利くふたりといえる。まさにノゾエの言う「ギャップから生まれるエネルギー」狙いの、ユニークなキャスティング。

ノゾエ「あえて、動ける人がいいなと。本来出したいエネルギーをギュッと抑えることによって、漏れてくるものが逆にすごくあると思う。ほぼモノローグで進むのでかなり孤独だろうし、ふたりはフラストレーションが溜まると思いますね。稽古場で何回かケンカがあるかもしれないです(笑)。でも“いい負荷”というのはあると思っているので、稽古場でいろいろ抽出できたらと思っています。今はいろんな考えがポンポン出てきてはいつつ、まだ固まってはいない状態ですが、稽古場で実際にふたりの身体と向き合ってみて収束していくものかなと。どうなるかわからない部分が多いので、僕自身、いいワクワクがありますね」

 

 老人ホームでの芝居を毎年続け、今年12月にはさいたまスーパーアリーナで行われる老人たちによる大群衆劇「1万人のゴールド・シアター2016」(蜷川幸雄総合演出)の脚本を故蜷川幸雄の遺志を継いで手掛けるなど、この世代には珍しく老年世代との交流も多いノゾエ。今回は、キャストふたりのファンが中心となる若い客層が予想される。

ノゾエ「そこも楽しみにしているんですよね。この作品はストレートに戦争を扱いながらも、人間のおかしさや愚かさといった個人の人間味が描かれています。一見遠いものに思いがちな戦争だけれど、その根っこにあるものは、僕たちと実は遠くない。それが“現代の若者”であるふたりの身体を通じて、より豊かに立ち上げられたら。普段はあまりそういうことは考えないんですけど、次代の演劇ファンとも言える若いお客さんたちに、何か持って帰ってもらえるものを提供できたらと意気込んでいます。もちろん人それぞれ感じ方は違いますので、『これ持ち帰って!』とは限定も提示もしません。ただ、小さな輝石みたいなのは、たくさんばらまきたいと思っているので、ひとつでもふたつでも持って帰ってもらえたら嬉しいです」

 

インタビュー・文/武田吏都
構成/月刊ローソンチケット編集部 5月15日号より転載

 

【公演情報】

ボクの穴、彼の穴。

翻案・脚本・演出:ノゾエ征爾
出演:塚田僚一(A.B.C-Z)、渡部 秀

日程:2016/5/21[土]~28[土]
会場:東京・パルコ劇場

Lコード:35817

※インターネットでのチケット販売はありません。