・インタビューしちゃいました!! 2017-10-24 16:08

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「作者を探す六人の登場人物」 長塚圭史 インタビュー

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物語の人物が実際に生きているような感覚は子どものころからありました

イタリアを代表する劇作家ルイージ・ビランテッロの代表作「作者を探す六人の登場人物」を演出する長塚圭史。キャストには山崎一、草刈民代、安藤輪子、香取直登らが名を連ね、ある劇団の稽古場に突如、実体として現れた“作者を探す登場人物たち”を熱演する。登場人物が意思をもって動き出す様子を「幼いころから、そういうイメージを持っていた」と語る長塚は、本作をどのように作り上げていくのだろうか。たっぷりと語ってもらった。

 

――今回はKAAT神奈川芸術劇場プロデュース公演として「作者を探す六人の登場人物」を演出されるとお聞きしましたが、どのようなきっかけだったんでしょうか。
長塚「そもそも、この作品が単純に趣味として好きで。昨年に「夢の劇-ドリーム・プレイ-」というストレートプレイの作品で上演台本を書いたときに、演出をされていたKAATの芸術監督でもある白井晃さんがその噂を聞きつけて(笑)、やってみようかという話になりました。もともと、この作品を小さなところでダンスの人たちと一緒にやってみたらどうだろうか、と考えていた演目だったんです。正確に覚えていないけど…7年くらいじゃないかな? 脚本を読んで、自分自身もこんなような作品をよく作っていたな、と思って、とても共感したんですよね。この脚本を読んでから、より影響を受けて作った部分もありますけど。物語の登場人物が実際に生きているという感覚は、子供のころからずっと抱いていました。20世紀初頭に一大センセーションを巻き起こした、とかこの作品のそういう事実は抜きにしても、僕には痛々しく迫ってくる話でしたね」

 

――ある劇団の稽古場に、行き場を失った“登場人物”が現れるというのは、複雑な構造ですが面白い展開ですよね。
長塚「稚拙な言い方かもしれないですが、子供も楽しめるような発想なんですよね。現れた“登場人物”たちは本物だから、僕を役者たちが演じようとしても無理。だって、“本物”が目の前にいるから演じるほうはどうやっても太刀打ちできない。それを舞台上でやられてしまうと、どんどんこんがらがってくるんですよ(笑)。でも時代としては相当な意味があって。僕らが安穏に暮らしているところに、まったく違った発想を扉の向こうから起こしてくる。だんだん演劇ってなんだという気分になってきて、演じるってなんだ、そもそも僕らは誰なんだというところに作品として行きつくんですよ。あと、居場所を失った登場人物が、まるで祖国を失った難民に見えてくるんですよね、どうしても。そこは稽古の中で見えてきた強い現代性と普遍性ですね。でも、喜劇なんですよ。大いなる悲劇をはらんだ喜劇なんです」

 

――実在していないはずの“登場人物”が、まるで実在しているかのようにふるまい、それをだんだんと受け入れてしまうようなおかしさでしょうか。
長塚「そこがまさにコミカルになってくる要素ですよね。結局のところ、登場人物を演じているのも“役者”なわけで、登場人物そのものではないんです。そこは非常に演劇を批評している部分だと思います。ピランテッロもおそらく相当批評的にこの演目を作っていて、役者なんて登場人物という“本人”が出てきてしまったら演じるなんて相当バカみたいだぜ、という発想で居ると思うんですよね。でも、観ている側は登場人物を信じてしまう演劇のマジックが起こるわけです。登場人物を“演じている”役者の“演技”によってね。劇場が限りなくマジカルな場所だということも示しているんですよ。演劇でできることの最大に近いことをやっている印象がありますね」

 

――ストーリー上の面白さと、演劇そのものに対する批評めいた面白さとの多重構造の喜劇性があるんですね。
長塚「今回スタッフも役者然として紛れ込んでいる。ある種、カオスですよ(笑)。その世界にグッと引き込まれていった後に“あれ?”って思うような。だから僕は登場人物たちが必死に何かやればやるほど、面白おかしく感じるんですよ。“でもこの人たちも役者じゃん”って(笑)」

 

――確かに観ている最中はそう思わなくても、観終わったあととかに“あれ?”となりそうです(笑)。上演台本にしていくにあたり、何か気を付けられた点はありますか?
長塚「もともとの脚本は古典的な要素が強かったので、登場人物たちが特定の時代性をはらんでいたんです。そこを、あくまでも六人の登場人物たちの時間であって、彼らがどんな時代、どんな場所に現れたとしても当てはまるような、ある限定された時代にならないようにはしました。時代性の違いで追いつけないものにするのは無意味だと思ったので。彼らは閉じ込められているんだけど、固定したところに置きすぎてはいけないんです」

 

――彼らの普遍性を浮き出させたんですね。そのほか、演出上で何か気にされている点はありますか?
長塚「セットはできるだけシンプルにしたいですね。演劇って、それこそこの控室みたいなこの場所でもできるんです。そういう感覚を忘れないでやりたいですね。そのほうがお客さんの脳も開くことができると思うんですよ。例えば…空を歩くとか、宙に浮くとか、そういうマジックにはしないようにしたいですね。もし、やるとしても、非常に原始的なやりかたでやっていきたいです。その分、劇場そのものがミニチュアセットのような空間になるよう、お客さんを誘ってやっていきたい。紙でつくるトイ・シアターのような雰囲気でね。そもそも虚構であって、その中にさらに虚構があるような感じです。そして俳優たちの演技はどこかいたずらのようなニュアンスでやっていけるようにしたいです」

 

――稽古の真っ最中と伺っていますが、どのようなところに力をいれていらっしゃいますか?
長塚「すごく時間をかけていることは、登場人物が現れて、役者たちが聞き手に回って、そこから言及していくわけですけど、その役者たちの存在が観客の視点にとっても重要だと考えているので、そこはものすごくやっていますね。登場人物たちも自分たちの話を聞いてもらおうと必死なんだけれど、役者たちがどこに焦点を合わせて聞いているかでこの劇の間口をグンと広げられるんですよ。この役者たちの存在がこの演目を華やかにする要素になると思っています」

 

――“登場人物”の中心となる父親役には山崎一さん、母親役には草刈民代さんがキャスティングされています。
長塚「山崎さんはもう熟練ですから。大いに楽しみたいといってくださっています。悲劇性を持っているけれど、登場人物の論理としてはもう演じたくて仕方ないわけです(笑)。その論理と大いに楽しもうというその勢いが合わさって、全体を引っ張っていってくれると思います。民代さんはやっぱり、佇まいのすごさですよね。ふと見てしまうと、そこに視線を送り続けてしまうような。民代さんが演じる登場人物の母親は、やりたくないやりたくないと言いながら、どこかいつでもスタート直前のようなスタンバイ感がある。欲望を抱えているんですよね。ここにも強く喜劇性があると思います」

 

――序盤から舞台を大きく動かしていくような印象がある“登場人物”の継娘役には安藤輪子さん、息子役にはダンスカンパニー・コンドルズの香取直登さんとなっていますが、こちらのふたりの印象はいかがですか?
長塚「安藤輪子さんは彼女が出ている映画を観て、興味を惹かれてワークショップに来てもらったんです。ミステリアスな要素を持ち合わせていて、すごく細いんだけど、そこからあふれ出てくるエネルギーがある。日々、成長していますね。彼女にとっては挑戦的な演目だと思います。香取直人くんは、僕がコンドルズに何回か出ているんですけど、その時になんか…いいなって思って(笑)。ある清廉さを持っていて、彼の役と母親役って非常に静なエネルギーを持っているんですが、ピンと張りつめている感じを魅せることができるので…そこは俳優ともまたちょっと違う気がしますね」

 

――物語の中に入り込んだり、俯瞰で見たりで、いろいろと印象が変わる興味深い作品になりそうです。最後に楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
長塚「ちょっと難しそうに感じるかもしれないですが、しっかり休憩はさんで2時間ちょっとくらいの喜劇です。そして、やっぱりこの作品は喜劇なんですよ。演劇をバカにしながら、その可能性や豊かさを示しているんです。それは今でも全然色あせていないんですね。初演の時は、観客は大騒ぎだったそうで(笑)。なんてものを見せられてしまったんだ!と、観客が怒ったりしたそうなんですよ。でも、同時にめちゃくちゃ面白かったという評判も上がって。古いものがいいと思っていた当時の演劇好きが、パッと目を開いたような作品なので、エンターテインメントとして楽しんでいただきたいですね。非常に騒々しく、賑々しくやっていきますので、皆さんもガヤガヤと混ざっていただければと思います」

 

――本日はありがとうございました。

 

インタビュー・文/宮崎新之

 

【プロフィール】
長塚圭史
■ナガツカ ケイシ 劇作家・演出家・俳優・阿佐ヶ谷スパイダース主宰。1996 年、演劇プロデュースユニット・阿佐ヶ谷スパイダースを旗揚げし、作・演出・出演の三役を担 う。2008年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト・葛河思潮社を始動、『浮標』『冒した者』『背信』を上演。17年には福田転球、山内 圭哉、大堀こういちと新ユニット・新ロイヤル大衆舎を結成し、4月に北條秀司の傑作『王将』三部作を下北沢・小劇場楽園で上演。
近年の舞台では作、演出、出演に、『ツインズ』(作、演出のみ)、『かがみのかなたはたなかのなかに』(12 月に再演)、『あかいくらやみ-天狗党幻譚』。演出に『プレイヤー』、『十一ぴきのネコ』、『蛙昇天』、『鼬(いた ち)』、『マクベス』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。また俳優としても『あさが来た』(NHK)、『Dr.倫太郎』(NTV)、『グーグーだって猫である』(シリーズ/WOWOW)、映画『バケモノの子』、『花筐/HANAGATAMI』(12 月16日公開)、『yes!-明日への頼り』(ナレーション/TOKYO FM)など。

 

【公演概要】
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KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「作者を探す六人の登場人物」

日程・会場:
10/26(木)~11/5(日) KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ

作:ルイージ・ピランデッロ

翻訳:白澤定雄
上演台本・演出:長塚圭史

出演(戯曲配役順):
山崎一 草刈民代 安藤輪子 香取直登
みのり 佐野仁香/藤戸野絵(ダブルキャスト) 平田敦子

玉置孝匡 碓井菜央 中嶋野々子 水島晃太郎
並川花連 北川結 美木マサオ 岡部たかし