・取材してきました! 2016-05-27 16:37

「コインロッカー・ベイビーズ」稽古場レポートが到着!

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いよいよ6/4[土]赤坂ACTシアターにて開幕!
「コインロッカー・ベイビーズ」稽古場レポート

 

80年代初頭に世間をにぎわせていた、コインロッカーへの幼児置き去り事件をモチーフにした村上龍の小説「コインロッカー・ベイビーズ」。’80年の出版当時、センセーショナルな話題を巻き起こしたこの作品が、30年以上の時を経た日本で新たな音楽劇「コインロッカー・ベイビーズ」として生まれ変わる。その意味とは――。

 

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コインロッカーに捨てられたのち、兄弟同様に育てられた2人の少年、ハシとキクを演じるのはA.B.C-Zの橋本良亮と河合郁人。歌やダンスに定評のあるこの2人と渡り合うのは、今やミュージカル界を席巻する昆夏美ら実力派キャストたちだ。エネルギッシュなドラマの中にはトラウマを持つ人の心に潜む脆さや危うさもにじんでいて、そのふり幅のある世界観を歌やダンスも含めて表現していく。“濃い”キャスト勢だけでなく、注目すべきはこの作品が、宝塚歌劇団所属の演出家、木村信司の脚本・演出によるものだということ。女性キャストのみで構成される宝塚とはまったく空気の異なるこの現場で、どのように作品が形作られていくのか。本番間近の稽古場にお邪魔した。

 

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この日の稽古は、ハードなアクションが入るシーンをメインに行われていく。例えば生みの母を探すため姿を消したハシ(橋本)を追って上京したキク(河合)が、毒物に汚染された危険地帯・薬島でハシと再会するシーン。変わり果てたハシに怒りを隠せず詰め寄るキクに対し、ハシのルームメイトであるフィリピン人のタツオ(真田佑馬)が「ハシをいじめるな!」と発砲する。実際には1分程度のこのシーンだが、いかに客席から見て状況がわかりやすく、しかも自然な流れでアクションを見せるかを木村とアクション指導のスタッフも含め、綿密に固めていく。「(銃を)撃つのが1秒早いね。ここで『てめえ!』って言ったらいい間が入るかな?」(木村)などと、何度か台本を修正しつつ調整。真田の演技の切り替えの早さもあり、かなりスリリングなシーンが完成した。

 

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続いてこの薬島で、ハシとキク、さらにハシのパトロンであるレコード会社社長、ミスターD(ROLLY)が顔を合わせるシーン。Dは関西出身でしたたかなやり手の社長という設定のため、いかにも憎らしく見える表情や顔の角度、関西人のおっさんらしい仕草をリアル関西人であるROLLYと話し合う一幕も。普段よりも低めの声でタメをきかせた関西弁を操るROLLYはなかなかのハマり役で、ハシの体に触れながら話しかけるシーンでは橋本に軽いセクハラをかまして稽古場じゅうの笑いを取っていた。さらにミスターDに敵意をむき出しにするキクを、ミスターDのボディガード2人が痛めつける…という流れになるのだが、ここでもパンチや蹴りを入れる際にボディガードたちとキクが近づきすぎると動きが出ないため、タイミングや3人の間の距離を細かく固めていく。ハードなアクションシーンの連続となるが、「他にも危ないシーンがてんこ盛りなんですよ、やれることは全部やってますから」(木村)という、何やら気になる予告も…?

 

橋本と河合は4月から歌稽古を重ね、多忙なスケジュールをぬってボリュームのある原作も読み込み稽古に臨んだそうだ。バラエティなどで見せる笑顔を封印し、自らの感情に不器用な少年キクを演じる河合の表情には、ギラギラとした凄みすら感じられる。休憩の合間にセットの端に座り、これまでのシーンを反芻するように考え込んでいる様子も見られた。

 

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橋本が中性的なハシの持つロマンティストな部分やセクシーさを、A.B.C-Zで鍛えた歌唱力でつぶさに表現していく様も印象的だった。自らの抱えるトラウマに勝てずにやがて薬物に溺れていくハシは、物語の中で次第に精神のバランスを崩していく。ハシが狂人めいた言動をするシーンに入ると、やや演技がマイルドな橋本に対し「日本人はどうしても感情を引っ込めがちなんだけど、お客さんにハシが“向こうの世界”に行ったんだって感じてもらえるように、ここでは感情を全部、全部出して? いいね?」と、木村が念を押すように繰り返す。このアドバイスで物語前半とはある意味別人格のハシが出来上がっていった。

 

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キクと恋に落ち、ともに神経兵器“ダチュラ”を探すモデルのアネモネを演じる昆も、表現力豊かな歌声と、抜群のリズム感を感じさせるダンスで物語にみずみずしい彩りを添えていく。キクがアネモネの部屋を訪れるシーンには、梅澤裕介や塩野拓矢(ともに梅棒)らキャスト多数が“ある趣向”で登場するのだが、そのシーン中になぜかケーキが運ばれてきて…? 実はこの日は塩野の誕生日でそのお祝い企画だったのだが、このサプライズに本気できょとんとする塩野の様子にみんなが爆笑。真剣な稽古中だが、和やかなムードが流れた。

 

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それにしても木村の演出はとにかく情熱的だ。ときには各キャラクターを自ら演じてみせながら演技指導をし、キャストが歌う横で音楽にのせて自分も踊る。そして作品を自分だけの考えでは決め込まず、カンパニー全員で説得力のあるものとして作りこんでいこうとする気概が伝わってきた。

 

原作者の村上龍はこの作品の脚本を読み、二つ返事で舞台化にGOサインを出したという。児童虐待の多さや赤ちゃんポスト利用者がなくならない現在の日本で、この作品を通して改めて考えなければいけない問題がある。芸達者なキャストたちが演技や歌、ダンスでつづる音楽劇の中で、あなたにも現実にいるかもしれないハシとキクに思いを馳せてみてもらいたい。

 

取材・文/古知屋ジュン

 

 

【公演情報】

ろご

コインロッカー・ベイビーズ

≪東京公演≫
日程・会場:6/4[土]~19[日] 赤坂ACTシアター
料金(税込):S席¥10,000 A席¥8,000

≪福岡公演≫
日程・会場:6/24[金]・25[土] 福岡市民会館
料金(税込):S席¥10,000 A席¥8,000

≪広島公演≫
日程・会場:6/29[水] 広島文化学園HBGホール
料金(税込):S席¥10,000 A席¥8,500

≪大阪公演≫
日程・会場:7/2[土]・3[日] オリックス劇場
料金(税込):S席¥10,000 A席¥8,000

★詳しいチケット情報は下記ボタンにて!